小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 コーベライトの叫びがフェンスの中に響く。自分に喝を入れるものだろうか、彼は自分の頬を両手で叩く。そしてハンマーを構えなおした。
「まぁ、オレ様はいくらでも相手にしてやるぜ?だって結果は同じだし」
 ハンマーを構えているコーベライトに言うのはガルゴ。それがまた頭にくる挑発で、コーベライトは「そんなもの、わかんないだろ!」と言うのだった。
 コーベライトは横なぎにハンマーを振るう。先ほどと同じで、ガルゴはそれを楽々と片手で受け止める。ガルゴはにやりと笑い、コーベライトも笑った。
「さっきと同じ先方じゃねえか」
「甘いね」
 左手にハンマーの柄を持ちながら、右手を放す。コーベライトの右手が空いた。そして彼は右手を上空に掲げる。
パチン!
 今から行動を起こそうとしていたガルゴが「いっつ!」とハンマーからぱっと手を放した。一瞬だけだが見えたのは黄色の光。コーベライトの指を鳴らすという合図と共に発生したその光は電気だった。
「静電気をちょーっと強くしてみたんだけど、それ以上やると人体に害をおよぼすって先生が言ってた」
 右手でハンマーをにぎりしめていた手を、痛そうにさするガルゴを見ながらコーベライトは笑顔で言う。
「てめ…………!」
 静電気を少し強くした電気を、ハンマーという橋を使って流した。それは発生させた者の力を少しだけ奪うという。だが、コーベライトは力を少し奪われても動じずにおり、翼を畳んでガルゴに向かって走る。
 手をさすっているガルゴとの間を確実に縮める。それを見たガルゴは、しまった!というような顔をしてコーベライトを見、ハンマーという武器が自由になったコーベライトの顔が瞳に映り……そして華麗に柄を回転させてガルゴの右手めがけて振り下ろされる。その一撃をスローモーションのように見ることしかできなかった。
「へへっ。悪いなぁ」
 ガルゴへの一撃が華麗にヒットし、彼は痛そうに右手を抑えるのだった。そしてもう一撃加えようと、コーベライトはガルゴの左手めがけてハンマーを落とそうとする。
「え、嘘」
 今度笑ったのはガルゴのほうだった。コーベライトのハンマーを痛かったはずの右手で受け止めて、左手では拳を作ってこちらに向かって打つ。
 左手が自分に来ることを確認したこところで、ずさっと地面に身体をすりながらも避ける。ガルゴの拳は一瞬だけ煌めき、コーベライトがいた場所には大きな穴があいていた。
 あっちも本気だ。前からガルゴのパワーはすごいと思っていたが、先ほどの一撃はガルゴの力強さを物語っており、冷や汗が背中に伝うのがわかった。
「背中、空いてるぞ!」
 拳を地面に叩きつけた瞬間にガルゴの体制が崩れて背中に隙ができる。コーベライトはハンマーを背中に向かって振り下ろす。振り下ろした背中はなんと固いのだろうか。ガルゴはびくともせずに地面についていた拳を軸に脚が動き、コーベライトにその脚が直撃した。
 脚とコーベライトが触れる瞬間、彼はまた指を鳴らして静電気を送った。一回転しようとしたガルゴの身体は、静電気のおかげで崩れることになる。
 そうか、ガルゴは電気などの技に弱いのか。そう考えたコーベライトはガルゴと距離を置いた。
「……はあっ!」
 ガルゴの無事なほうの手、つまり左手に衝撃波を放ったのだった。
 フェンスの中に黄色の光が爆発した。正確には衝撃波が爆発したということだろうか。その衝撃波はガルゴを直撃した。彼は武器であった筋肉のついたたくましい両手をだらりと下げていた。
「いくらお前でも、武器だった両手を痛めたら意味ないだろ?だいじょーぶ。あとでキルカル先生が治してくれるって!」
「ちっくしょう!」
 ハンマーを肩に担いで笑顔のコーベライトに拳を打とうとするガルゴ。だがコーベライトはガルゴのその痛そうな拳に静電気をまた当てることによりガルゴは完全に地面にうずくまった。
「ガルゴ君の武器が使えなくなったため、コーベライト君の勝利!」
 先生のその言葉に「よっしゃ!」と言うのはコーベライトだった。

「いやー、勝てるとは思ってなかったー」
「負ける気でいたのか」
「いやいや、そういう意味ではなく」
 コーベライトの試合の後、ヴィオラも順調に試合に勝った。その後にはさまれた昼食の時間でコーベライトは満足そうな顔で「あー。勝った後の飯はうまいー」と、たぶんフローライトお手製の弁当らしいものを食べていた。
 ヴィオラがちらっと見ると「お兄ちゃんがんばって!」というメッセージ入りの弁当だった。
「そういえば、俺が試合前に言った言葉あるじゃない?」
「ああ、ガルゴに言っていたな」
「あれ、本当に守ってくれるかなぁ」
 弁当をもぐもぐと食べながら、コーベライトはガルゴの試合の前の時に言った「俺が勝ったら教室の雰囲気のため、みんなにちょっかいをださないこと」という約束をしたことを思い出した。言って勝ったのはいいけれど、はたしてガルゴはそれを守ってくれるのだろうか……と、二人は思った。

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