小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 太陽が頂点に後少しで昇ろうとしている時間、夜中に作業をしていた建物に向かう人物がいた。
「鍵……」
 呟いてごそごそと鞄を漁る。その人物はヴィオラで、鍵がなかなか見つからないので少し焦る。だが鞄の中にある小さなポケットに鍵が入っていたことを思い出し、鍵を見つけると嬉しそうな顔になる。鍵を卵がたくさん入っている建物のドアにさして開く。
 ヴィオラには学校に登校する前の日課というものがある。それはこの建物と卵の無事も毎日確認するもので、今日も異常は見当たらなかった。そのことにほっとして、自然と笑顔になる。
ガラスケースの中におとなしく入っている卵達にはそれぞれペンダントがかけられていて、ペンダントが何かを伝えるように柔らかい光を発していた。
「少しエネルギーが足りないのか?」
 そうだよ、と言う風にペンダントの光はゆっくりと点滅していた。思わず笑みが出る。柔らかな笑みを見せるヴィオラは「よし」と言って卵に手をかざす。体内に溜めている、自身の力の証とも言われているエネルギーが少し抜けるように出ていくのを感じた。エネルギーを少し卵に分けてあげると、卵のペンダントは点滅することをやめた。卵が必要としているエネルギーが卵に入った証拠だ。ペンダントの光が少し強くなったような気がする。
 見入るような光だな、とヴィオラは思った。何度見ても飽きないと毎回思うのだ。暖かい光で安心させる光。大袈裟かもしれないが、自分はこの光に助けられていると思う。そう思わせるほど、安心感を覚える光なのだ。
 その光を少し眺めた後、ヴィオラは時計が内蔵されているリストバンドを見て「時間が!」と慌てた様子で外へ出る。慌てていても建物のドアの鍵をかけることは忘れることはなく、鍵をしっかりとかけた後ヴィオラは目的地に向かって走った。
 途中でお話好きのパン屋のおばさんに「ヴィオラ君おはよう」と声をかけられたので、「おはようございます!」と急ぎながらも頭を下げて走る。
 ヴィオラの目的地は学校で、学校に向かう生徒はたくさんいるのだが鞄を抱えて走っているのはヴィオラだけだ。そんな彼の様子を他の生徒は不思議そうな顔で見、ある者は何故そんなに急いでいるんだろうと思い、またある者は遅刻してしまう時間なのかと勘違いをして腕時計を見た。だが遅刻する時間でもないので安心して、その生徒はまたゆっくりと歩き出した。
 急いで門をくぐるヴィオラ。ヴィオラが通う学校はベルメン士官候補生育成学校と言い、将来市民を守る士官として活躍する生徒を育てる学校だ。今年に入って二年生になったヴィオラは、真面目な性格から来る、早く登校して早く自分の席についていなければならないという感情があった。だからなのか、時間はまだあるもものの早めに登校するために走っている。
そんなヴィオラを見て、彼を呼び止める者がいた。
「いよう!ヴィオラおはよう!」
 その呼びとめた者とは、昨晩一緒に卵がたくさんある建物と共にいたコーベライトで、その隣には女の子がいた。
「……ああ、コーベライトにフローライト。おはよう」
「おはようございます、ヴィオラさん」
 くせをつけた金髪の髪の毛をふわふわゆらすコーベライトの隣にいるのは、コーベライトの妹であるフローライトだ。彼女は丁寧にお辞儀をする。お辞儀をしたときに長いウェーブのかかったピンク色の髪の毛がふわりと揺れた。頭を上げた後には可愛らしいその顔にある、印象的な暖かく赤い瞳がヴィオラを見つめていた。彼女は、ふと見てるだけで癒される笑顔でヴィオラに「今日も急ぎですか?」と問う。
「フロラ、ヴィオラは毎日早めに登校しないと駄目だって思っているんだよ」
「あ、そうでしたね〜。前におっしゃっていましたね」
 目の前でにこにこと笑ってしゃべる兄妹。フローライトは気をきかせて「ヴィオラさん、急いでいるんでしたね」と歩きながら話す。ヴィオラは「まだ早すぎると思うから大丈夫だ」とコーベライトとフローライトの歩く速度に合わせて学校の敷地内を歩く。
「今日は午後から授業でしたが、ヴィオラさんは大丈夫でしたか?ちゃんと寝ましたか?」
「ああ、心配ありがとう。ちゃんと寝て来たから大丈夫だと思う」
「ふふっ。私のお兄ちゃんとは正反対ですね」
 そうフローライトは笑う。ヴィオラは一瞬コーベライトを見て、「コーベライトは寝なかったのか?」とフローライトに問うた。
「え?ええ……まぁ、お兄ちゃんは私の知っている限りだと、寝ていませんよ」
 その言葉を聞いたヴィオラは苦笑して、コーベライトとフローライトを見て「また本屋とかにでも行ってきたのか?」と言った。コーベライトは、にかっと笑ってみせると歩きながら自分の鞄の中から茶色の袋を取り出し、一冊の雑誌を袋の中から取り出した。

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