小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「そう、緊張しない。私はそれが羨ましい」
 冷や汗が伝う。そして今自分が相手をしている、このクラスメイトの能力を思い出し……そして自分の足元を見てぎょっとなった。
「そんな貴方に緊張を味あわせてあげる。脚元に蔓が巻きついているわよね?それを見てどう思う?」
 どう思うも何も、何もなかった地面から何かの植物の蔓は急速に成長しており、まず脚からヴィオラの身体の自由を奪っていく。その光景を見てルアは満足そうに笑って言葉を続ける。
「その蔓ね、成長するのがとてもはやいの。もう三分後には首元まで巻きつかれるんじゃないかしら」
 すでに太ももまで蔓か来ているのを見てヴィオラは焦る。この蔓は予想以上に強く、引き千切るしか方法はないようだ。だが絡まっている蔓が多すぎてなかなか千切れないでいる。
「緊張、私はいつもしているわ。でも今日この作戦が成功してよかったと思っているのだけれどね」
 ルアはやっぱり笑顔だ。そして先ほどから一歩も動いていない。
 馬鹿か、自分は。のんびりとした話に付き合わなければよかったのに。
 真っ先に思ったのはこの言葉だ。ルアが発生させたと思われる蔓を引き千切ろうと必死なヴィオラ。蔓は頑丈で、千切ろうと身体を動かせば動かすほどに体力が奪われて行くのがわかる。
「ルア、これがお前の作戦か?」
 ヴィオラの言葉にルアはきょとんとなり、でもやっぱり笑顔で「ただのお話よ」と誤魔化すのだった。
 馬鹿か自分は。そう、もう一度心中で思った。そして今の、しばらくルアが黙ってまた話し出したことにヒントを見つけた。
 ルアが言葉を発するたびに蔓が自分の身体に絡みついてくるのがわかる。蔓が成長しているのは、ルアが口を開いている時だけなのだ。そう考えてヴィオラはある作戦を取った。
「すまない、ちょっとだけ耳をふさがせてもらう」
 ヴィオラは言ってポケットにあった耳栓を、まだ自由な両手で耳に入れた。
 意外なものを持っていたヴィオラに、観客やルアはぽかんとなる。耳栓を耳にねじこんだヴィオラは「よし」と言ってまた大鎌を構えた。
……これでルアの声はあまり聞こえないだろう。
「貴方、色々と準備がいいのね」
 耳栓五氏なので声は小さくしか聞こえない。耳栓の登場でルアが少し焦っていることがわかる。そして自分もクラスメイトも疑問だったことをヴィオラは口に出した。
「いつも疑問だったんだが……お前の能力は言霊だな?」
「お話するのに耳栓は必要かしら?」
質問されているルアは質問で返した。その焦っているような様子を見て、ヴィオラはビンゴだと思った。
ルアの声が聞こえるたびにヴィオラに巻きついている蔓が成長しているのがわかる。今は腹部まで成長していた蔓が、耳栓をしたことを境に成長が遅くなったような気がする。
「当たりだな」
 そう言って笑い、大鎌を振り上げて……それをルアに当てるのではなく、最初の試合の時にコーベライトがそうしたように、地面に鎌の先を叩きつけた。衝撃波がおこり、ヴィオラとルアの間に穴があく。ヴィオラの側の穴には地面にあったのだろう、蔓の核である球根が植えられていた。
「昔、そういえばここは花壇だったらしいな」
「知ってたの?」
 ルアが話すと蔓が伸びる。そう、ルアの能力は言葉を放すことでルアが言葉を発するとそれは可能な限り実現する。そして今使っている能力は詳しくいうと、こうだった。
「俺がルアの言葉を耳に入れるとこの蔓が育つ仕組み、そうだろう?つまりルアは俺から栄養を吸収できるようにして、俺のそばにあった球根を動かしていたんだ。球根からのびる蔓は俺に触れているから俺から栄養を吸収できる。で、ルアは俺に言葉と言う影響を吹きこむことによって、莫大な栄養を俺の中に溜めさせようとして球根を育つようにしていたんだな。もしそうなら、球根を壊したほうがはやいんだが……それはちょっと球根が可哀そうだ」
 ヴィオラの目が光る。ヴィオラはぶつぶつと何か言い、自分に巻きついている蔓に目をやった。
「この蔓が、俺を放してくれますように」
 そうヴィオラが言うと、蔓はするすると大人しく地面に戻る。満足そうに笑うヴィオラは「本気の勝負はこれからだ」と言う。
「私も」
 ルアが信じられないというような表情で言う。
「貴方の能力がわからなかった、不思議だと思っていたの。でも今わかったわ」
 フェンスの外ではルアの続きの言葉を知っているような表情のコーベライトが「やっぱりな」と呟く。
「貴方、まさか……」
 ルアがヴィオラをじっと見て続ける。ルアの言いたいことがわかったようで、ヴィオラは目を閉じて「今まで隠していたんだがな」と一呼吸おいて言った。
「俺の能力は、他人の能力をコピーすることだ」
 コーベライトは「やっぱりなぁ。おかしいと思っていたんだよ」と呟き、フローライトが彼を見た。
「お兄ちゃん、ヴィオラさんの能力知ってたの?」
「うん、なんとなく。だって今まで使えなかった技が、使ったところ見せたら次の日使えるようになっているからな。でも、まさか本当にコピー能力を持ってるなんて知らなかった……」
 言うコーベライトはどこか嬉しそうだ。それは親友の新しい面を発見したというところか、それともこの勝負がおもしろくなってきたという意味なのか。
「ルアの」
 名前を言われ、ヴィオラを見るルア。その目は怯えではなく本気の戦いをしましょうと言わんばかりの目だった。
 ルアは笑う。
「今から数分でいい。黙っててくれますように」
 そうヴィオラが言うと、ルアは声を発することができなくなった。口をぱくぱくさせて、少しだけやられたというくやしそうな表情でヴィオラを見た。
「声、封じちゃったかぁ」
 見ていたコーベライトは言う。そんな声が聞こえたのか、頷くヴィオラ。そしてその大鎌を掲げて、今度はなぎ払うように振った。
「!」
 衝撃波でルアがフェンスに叩きつけられる。その攻撃を受けて、ルアは楽しそうな顔をした。体制を立て直して手を掲げた。手を掲げた後には光。そのあと、手中に収まっていたのはひと振りの大きな斧。

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