小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 放課後、帰り支度をしているとヴィオラの前にコーベライトが来てこんな言葉を言った。
「最近よくセレスタイトと会っているよね」
 ヴィオラの鞄を掴もうとしていた手が止まった。それを見て「ばれてないって思ってたでしょー」と、コーベライトは笑顔で言う。ヴィオラは驚いたような顔をして「知っていたのか?」と問うた。
「何年親友やっていると思っているのさ」
 コーベライトはそうにかっと笑っていったが、セレスタイトと会っているということだけ言い、話の内容などの他のことは聞かなかった。そのコーベライトを見ているヴィオラは少し申し訳ない気持ちになった。気遣いだな、と感じた。そして日頃お世話になりすぎている、とも感じた。
「それじゃあ、捜索の時間まで世話行きますか!」
 彼は少し小声で言う。ヴィオラは頷くと教室を出て卵の保管場所となっている建物に移動するのだった。
 卵のある建物は、何故か移動する時緊張してしまう。誰にも見つからないようにという規則はないのだが、ヴィオラの父の研究室で卵が盗まれたことを考えると、誰にも見られない方がいいのかと思ってしまう。
 今日もそんな心配をしながら建物について鞄から鍵を探す。ヴィオラが探しているとコーベライトが「あ」という、驚いたような声をあげた。
「どうした、コーベライト」
 ヴィオラは鞄の中を探していて、コーベライトの見ている方は見えていない。コーベライトがヴィオラの服を少しひっぱるとヴィオラはようやく鍵を見つけたようで「どうしたんだ」と言った。
 鍵を鍵穴に差し込みながらコーベライトの見つめている先を見ると、ヴィオラも固まってしまう。
「……あれ。ここの管理してる、の?」
 二人の視線の先にはソラがおり、ソラはただなんとなく道を通り過ぎようとしているところだった。二人はソラを見て「なんでここを……」と言った。
「いや、いつも強い力を感じるなぁと思って、今日軽く通り過ぎようかなって思って……」
 ソラは二人の表情が固まっているのを見ながら申し訳なさそうに言う。
「ご、ごめん……」
「いや、いいんですが……」
 双方に気まずい空気が流れる。ソラは二人と目をそらしつつ「その建物って、なんだろうって前から思っててさ……」と以前から興味があったと思える口調で言う。そんなソラを見ていてヴィオラは焦った表情を少し落ち着かせながら「先輩なら……大丈夫だと思うんですけど……。学校のこともありますし」と言った。
「そうだね。ソラ先輩にもちょっと関係あるからね」
「え、中を案内してくれるの?」
 ヴィオラとコーベライトの言葉に、ソラはぱっと嬉しそうな顔をした。だがやっぱり申し訳なさそうな声で「無理だったら言ってね」と言う。
「周囲には内緒にしてくださいね」
 言わないだろうが、一応念を押す。ソラは頷いて「約束するよ」と言う。周囲を確認して、ヴィオラはそっとドアを開けてコーベライトとソラを中に入れた。そしてドアを閉じると明かりをつけた。
「…………わぁ」
 ソラは窓が最低限しかないこの建物を見回した。
 建物の壁にガラスケースがきちんと並べてある。その中にはソラも学校で守っている卵があり、ソラはそばにあった卵をじっと見つめ、そしてきらきらした表情で建物を天井まで見渡すのだった。
「すごい……すごいよ!こんなに護ってるなんてすごいよ!」
 わぁ……。とソラは感嘆のため息をついて「すごいなぁ」と言う言葉を何度も呟く。その背中に向かってヴィオラは声をかけようとしたが、ソラが振り返り「こんなすごいところ、警戒する理由がわかるよ……」と言う。
「今まで黙ってました……」
「いや、ここは黙っておいたほうがいいね……ごめんね、見せてもらって……。でも見せてくれてありがとう」
 ヴィオラが申し訳なさそうに言うと、ソラはもう一度「ごめんね」と繰り返した。ヴィオラの申し訳なさそうな感情は、ソラは学校で自分の秘密を教えてくれたのに、自分の秘密は教えていなかったという罪悪感もあったからだ。その事を話すと、ソラは笑顔で「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「ここはすごいエネルギーがあるなぁって思ってたんだけど……まさか卵がこんなにあったとはね……知らなかった」
 ソラはガラスケースの中にある卵を見て「すごい……」と言う。
「ねぇ、聞いてもいいかな?」
 ヴィオラとコーベライトが卵のチェックをしていると、一つの卵を見ていたソラが言う。
「二人は卵を護っているでしょ?きっかけとか、あったの?」
 あったら教えてほしいな。というソラに「えーと……」ときっかけを思い出すのはコーベライト。
「俺の父親から預かったんです」
「あ、そうだったね。で、偶然みつけちゃった俺も手伝うことになったんです」
 二人の話をソラは微笑みを浮かべて聞いていた。
「そっかぁ。コーベライト君は卵を見ちゃったんだね……ヴィオラ君のお父さんは何の仕事をしているの?」
「研究をしています。卵がどうやって作られて孵化するか、とかなんです」
「ヴィオラ君はどういう経緯で頼まれたの?エネルギーが一緒だったの?」
 ソラの質問に「エネルギー……そうですね。」と答える。
「こいつが俺と同じエネルギーを持っているやつなんです」
 そういって一つのガラスケースの中に入っている卵を指す。そして「コーベライトのエネルギーと似ているのは、あれです」と向こう側にある卵も指した。
「でも、同じって言っても全部が俺達と同じわけじゃなくて、少しだけ似ているっていうのもあるんですよ」
「そうなんだ……すごいね」
 ソラの言葉は心からのものだった。そして「じゃあ、この建物のことは秘密だね」と言い、笑った。
「秘密でお願いします……最近卵狙いに来る奴が多いらしくて、被害が多いんです」
「ああ、ラジオで言っていたね」
 ソラはまた違う卵の傍に言って「この卵達が孵化する瞬間が楽しみだね」と言った。

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