小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 失踪者が見つかって日が経った、満月の夜のこと。
「やぁっと、見つけたわよぉ……!」
 闇の中で二つの黒い影が対峙している。一つは仮面をつけている黒いマントの人物。マントの人物は、今までの人物とは違ってマントに赤い模様が刺繍されていた。
 もう一つの影はシルエットで、シルエットは嬉しそうに笑い、手をかざして大鎌と翼を作るのだった。
「あなた、卵を知っているかしらぁ?」
 答えはもう知っている、という様子でシルエットは笑った。その人物は首を横にも縦にも振るわけでもなく……ただシルエットを見つめていた。
「まぁ知っている人は少数よねぇ」
 何が楽しそうなのかはわからないが、嬉しそうに笑う。そして次の質問を仮面の人物にする。
「あなたって、失踪事件の犯人よねぇ?……本当の」
 本当、という単語を聞いて仮面の人物は少しだけ方を揺らした。
「最低よねー。他の子に罪かぶせるとか、ありえないわよぉ」
 シルエットは一人で話す。その間に、仮面の人物はさっと手のひらに光を集めてシルエットに攻撃する。仮面の人物による攻撃を楽々とかわす。シルエットは大鎌を手中で一回転させて、鎌の先で地面を叩いた。衝撃波が地面を伝って仮面の人物へ一直線。これはやった、とシルエットは心中で思って手をぐっと握りしめた。
 砂埃が舞い、次の攻撃がいつどこからでも来ていいように大鎌を構えるシルエット。
「…………。攻撃、来ないじゃなぃ」
 仮面の人物が姿を現さないので、待ちきれないといった様子で少し風を起こして砂埃を消した。
「あーらら。やられたわねぇ」
 砂埃の中には人の影も形もなく、砂埃を利用して逃げられたのだと確信した。それでもシルエットは嬉しそうな口調で「ユーディア!」と呼ぶ。
「……なんだい?」
 シルエットが一戦を交えたところを、空から見ていたユーディアは地上に舞い降りる。彼はシルエットに近づき「身体の調子はどうだい?」と心配そうに聞いた。
「大丈夫よぉ。あ、でね、さっきの相手が逃げたよぉ」
「はは、それは残念だ」
「でもあの人、あたしのことも巻きこむつもりだったみたいねぇ」
「それは困るね」
「でしょう?それで、ユーディアのほうは?成功した?」
 シルエットは月明かりしない闇の中で問う。ユーディアは「成功したよ」と笑うと、腕に抱えていたものに被せていた布をとった。
布をとると青い光が緊急時の光のように光っている。その光はついたり消えたりと忙しい。まるで自分の危険を知らせているようだった。
「これ……は、どうしようか?」
「さぁ?ちょっと観察してみてもいいんじゃなぃ?」
「卵の観察か。なんか新しいね」
 ユーディアの成功、とは学校にあったソラが大事にしている卵を奪うことで、その卵は今ユーディアの手にあった。必死に光を放つ卵を見て、ユーディアは笑みを浮かべる。だがその笑みは楽しそうなものではなく、さびしそうなものも入っていた。
「あの学校には、まだ卵があるかもしれない……だからまた行ってみるよ」
 そう、ユーディアはシルエットに笑いかけた。
「ねぇ」
 翼と大鎌をしまいつつ、シルエットはユーディアに歩み寄る。
「ユーディアの目的は……空の大陸の人間と地上の人間の格差をなくすことよねぇ?」
「ああ、しそうだよ。その通りだ」
 ユーディアは卵を抱えて、どこかさびしげに夜空を見上げる。シルエットはぱっと嬉しそうな顔をして「じゃあ、やっと願いがかなうのねぇ!……いえ、一歩踏み出したところかしらぁ」と言った。
「ははっ。そうかもしれないね。一歩……いや、状況によっては三歩くらい進んだかもしれないね」
「どういうことぉ?」
 尋ねるシルエットに、ユーディアは青い光をチカチカと自分の危険を周囲に知らせているような卵を掲げ、語る。

 世界は一つだ。一つのはずなのに地上からは見えない上空に空の大陸はある。その空の大陸には、翼を持つことが許された人々がいた。それが自分達、空の大陸の人間。
 一度だけ空の大陸の住人だということを伏せて地上に降り立ったユーディアは、そこで大きな変化を目にした。
 翼がないことと、貧困。
 空の大陸の人間は士官を立てることにより政府を設立していた。だが、ユーディアが見た地上の人間達は、日々争うごとが絶えずにいた。地上は空の大陸よりエネルギーも薄く、人々は一日を生きることにものすごく困っているように映った。
 自分達が立っている空の大陸は、背中の翼のおかげで膨大なエネルギーを操って制御することができている。そこでユーディアは一つのことに気がついた。
 空の大陸の人間が、地上のエネルギーを吸っているのではないかと。
 とある森に言った時のことだ。その森にはエネルギーは小さな光の粒となって目に見えて分かる、とても綺麗な場所だった。その光はふわふわと浮いていたが、急に上空に吸い込まれるように光が動いた。ユーディアが光の先を見上げると、光の行く先は雲の上にあり空の大陸。
 試しに誰もいないその森で自分が翼を作ってエネルギーを生慮してみるとどうなるか、ということを確かめてみた。その実験でユーディアは確信した。自分達が翼をはやすことでエネルギーを吸い取り制御し、地上の大陸を苦しめていると。

「だからここに戻ってきたユーディアは、格差をなくそうとしているわけねぇ」
 のんびりとした声で、でも聞き入っているような表情でシルエットは言う。
「そう。だから私は……世界中にある卵を壊すことにより、中に入っている未熟な翼の種をも壊し……空の大陸の人間が地上で暮らせばいいと思っているんだ」
「ふぅん」
 シルエットは頷く。そしてふと、卵を見た。
「じゃあ、今ここでこの卵を壊しちゃえばユーディアの目的は一つ達成させることができるっていうことよねぇ?」
「そうだね。それもあるのだけれど」
 一呼吸置き、ユーディアはとても大事なことを言う。
「大陸中の卵の中には一つだけリーダーがいるようになっている仕組みでね……そのリーダーの卵が孵化する瞬間に壊すと、他の卵全てが機能停止する仕組みになっているんだよ」

-35-
Copyright ©こめ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える