小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「だってさぁ、この雑誌の特集記事が「ここ最近の怪奇現象!」っていう内容だったから、つい」
 コーベライトはにこにこと満足そうな笑顔でそう言う。ヴィオラが苦笑いしていると、フローライトがうんうんと頷く。
「最近の怪奇現象の一部だってさ、スプーンが曲がったり知らないうちに物がなくなったりって」
「それって人が寝静まった夜に小人さんがどこからともなく現れて物を持って行っちゃうっていうお話だよね」
「そうそう。さっすがフロラ!」
 兄妹の話が盛り上がっているなと思っているとフローライトがこちらを向いた。
「この雑誌おもしろいんですよ〜。ヴィオラさんも一度読んでみてくださいっ!」
「あ、ああ……」
 フローライトとコーベライトの嬉しそうな視線を無視することはできず、雑誌を受け取りながら「後で読む」と言い、次のことを問うた。
「というかコーベライト、あれから家に帰って少し寝るとか言ってなかったか?」
「うん。でも、可愛い妹が本屋に行きたいって言うから、つい……!」
 たはは、と笑顔で頭をかきながら妹のフローライトを見た。フローライトは「お兄ちゃんも本屋さん行きたかったんだよね」と口元に手をあてて笑う。
「だってさー。可愛い妹のためだしさー」
 コーベライトがそう言うとヴィオラは「お前は本当に妹想いなんだな、この妹馬鹿」と呆れながら言って持っていた雑誌でコーベライトの頭をはたいた。コーベライトはますます嬉しそうに「俺はフローライトの良い兄ちゃんでありたい!」と宣言するように言った。
 傍から見て他の奴だったらたぶんシスターコンプレックスだとか言われそうだが、ヴィオラはコーベライトは良い兄だと思う。一人っ子のヴィオラには少し羨ましくも思った。

 ベルメン士官候補生育成学校では、攻撃部門、守備部門、回復部門という三つの部門に分かれている。ヴィオラとコーベライトは攻撃を特に学ぶ攻撃部門の二年生で、フローライトはまだどの部門に入るのかを考える一年生だ。入学して一年間は、総合として、一年間でいろんな部門の内容をじっくりと習い、二年生になった時にどの部門に入るのかを一年生の後期の時期に決めるのだ。フローライトは入学当時から「私は回復部門に入ります!」と決めているそうなので、最初それを聞いたときは「目的があっていいな」と思った。
 フローライト達総合扱いの一年生と、攻撃部門に所属している二年生は校舎が違う。ちょっと離れた校舎に向かうフローライトに手を振りつつ、二人は自分達の教室へと向かった。
「徹夜状態で大丈夫か?」
「平気だって!」
「本当に?ちょっと心配なんだが。その自信はどこから来る?」
「去年の夏くらいに二日間の徹夜をしたことがあるからだっ」
 怪訝そうな顔で問うたヴィオラに、コーベライトは元気よく答えた。徹夜経験があるなら安心かもしれないが、彼の場合一回だけで、うっすらと目の下に隈ができているような気がするなとヴィオラは思った。まだ朝礼にははやい時間だからだろう、生徒の話声で廊下はざわざわしている。コーベライトと教室に向かっていると、廊下の窓辺にいた二人の女子生徒の会話が聞こえた。
「今日私、登校途中に四年のソラ先輩見かけちゃったのよねー!」
「ちょっと何ソレ!羨ましすぎる!」
 人の会話の切り口と言う物は一つのネタから始まるものなのかな、とヴィオラは思った。女子生徒二人は窓の外を見つめながら「かっこいいよね……」とうっとりした表情で外を眺めていた。
「まだ時間はやいし、もう一回みれるかどうかちょっと教室通ってみる!」
「あ、ずるいずるい!あたしも行きたい!独り占めはさせないんだからね!」
 うっとりしとした表情から一変、真剣な表情で目をきらきらと輝かせている女子生徒は風のように消えてしまった。普段言われている女子力ってこんなかんじのものなのかと思っていると、コーベライトにつつかれた。
「同じ学年の女子はみーんなソラ先輩に夢中なんだよね。アナタは年上に好かれるタイプだと思うから、狙うのは年上のお姉さんにしないかいヴィオラさん」
 ふと向くと、にやにやとした表情でそういうコーベライトがいた。自分はいつの間にか、先ほどの女子生徒を見ていたらしい。
「…………気持ち悪いぞ」
 コーベライトのにやにやした表情に向かって苦笑いでそう言うと、教室へと向かうとする。あと三つの教室を通れば自分たちの教室だ。
「まぁでも、ソラ先輩人気ある理由わかるかもだけど」
「そうなのか」
「だってチョコレートの日に女子からのチョコレートが大きな袋二つ分とか、どれだけ人気なんだよ……!」
 あー、いいなぁいいなぁソラ先輩っ!俺も先輩みたいにカッコよくなりたいっす!などと今この場にいない先輩のことを本気で悔しがっているコーベライトを横目で見ながら「羨ましいんだな」と言った。
「羨ましいに決まってんだろー。実技筆記共に成績優秀で容姿タンレンとかすごくない?」
「容姿端麗、な」
「あ。そうだった」
 コーベライトのミスを修正すると、彼は羨ましそうな顔からはっとした顔になった。そして考える。
「チョコレートの日にチョコもらえる秘訣ってなんだろ……。あ、でもヴィオラも女の先輩から幾つかもらってなかったっけ?」
 貰った。と言う前に「ちっくしょー!ヴィオラまで羨ましすぎる!…………裏切り者め」と一人で芝居をするかのように、コーベライトは自分で言い、自分で怒った。

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