小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 あの日からユーディアはシルエットを休ませることに決めた。これからは自分が彼女を護っていくのだ。そう、決めた。
 昼、ユーディアは街に来ていた。顔は覆面で隠し、目的の家の前に立つ。そこはエネルギーが満ち溢れており、ユーディアはそのドアノブに手をかけようとした。
「そこにはなにもないぞ」
 背後から話しかけられ、ドキッとする。振り返ると、そこには緑の瞳を持った見知らぬ男がおり、年齢はユーディアより十歳ほど上だ。
「強いエネルギーを感じるんだ」
「だろうな。そこは学校の次にエネルギーが高いところだ」
 ユーディアの口調にそう言う男。この様子だと卵のことは隠していないようだな、と感じた。
「ここに、私の狙っている物がある」
 言ったユーディアは戦闘態勢に入る。一方相手の男は戦闘態勢には入らずに「卵か?」と問うた。狙っている物を当てられたユーディアは目を見開き「何故わかるんだ?」と問うた。
「年上には敬語を使え」
 まあ、ここにでも座れといわんばかりに、建物の近くにあるベンチに腰を下ろす男。ユーディアはその男に殺気と言うものが全くなかったが、少し警戒して隣に腰を下ろす。
「こうやってのんびりするのも、いいものだぞ」
 そういう男は厳しい表情にのんびりとした口調で言う。ユーディアはこの男の意図が全く分からずに「何が言いたいんだ?」と問う。緑色の目をした男はユーディアに笑いかけ「あんた、卵狩りのユーディアだろ?」と言った。
「……なんでそれを」
「能力のおかげ、だな」
 たしかに他の人から卵狩りのユーディアとは呼ばれているが、今は覆面で顔を隠している。ばれていないと思っていたのに……とユーディアは思っていた。
「正体ばれていないとでも思ったか?」
 この男には特別な能力が備わっているらしく、隠し事をすることは無理だと判断した。
「能力はなんだ?」
 男の能力に興味を示したユーディアは率直に聞く。男は喉を鳴らして笑い「気が読める」と言った。
「気というよりも、心を読むことに近いな……推測の場合が多いが、俺の読みは大抵当たるぞ」
そういって男は笑った。だが急に笑った顔から真剣な表情へと代わる。
「あんた、この街の卵を盗っているんだってな?」
「目的のためなら容赦はしないよ」
 男はユーディアを見つめ「俺の研究室の卵を盗ったのもお前だろう?」と言った。そこまで分かっている男に少々びっくりしながらも「そうだ」と素直に卵を盗ったことを認めた。
「あの卵、今どうしている?」
「私の家にあるよ」
 眉間に皺を寄せて聞く男に対し、平然と答えるユーディア。男は呆れた様子も混ざって「慣れているな」と言った。
「ニュースで卵狩りのことが流されていたときから思っていた。お前の目的はなんだ?」
「ニュースが流れた時から、私だってわかっていたのか?」
「いや、その時はまだ能力に目覚めていなかった」
 そう言って男は笑う。
「卵を狙って、何をしているんだ?」
 能力が目覚めたのは最近、と言っていたので男にはユーディアの目的がわからなかったらしい。問うと、ユーディアは笑ってこう言うのだった。
「卵を壊して、翼を作れないようにする」
「どうしてそんな必要がある?」
「……貴方の能力なら、今私が考えていることがわかるだろう」
 ぶっきらぼうに言うと男は笑いながら「卵を壊して格差をなくすことだな?」と言う。
「だが、それは意味のないことだぞ」
「それはどうして?」
「人の作り話に翻弄されるな。大陸中の卵が壊れても、翼はなくなることはない」
 男の言葉にユーディアは目を見開き「どうしてそんなことを知っているんだ」と言う。男は言うべきか言わないでいるべきか悩むような仕草をして「知ってしまったのもある」と呟いた。
「詳しく知りたい」
「ショックでも受けるなよ?」
 ユーディアは頷き、先ほどまで警戒していた男の言葉を真剣に聞く。
「簡単に言うと、あんたの計画は無意味ってことだ。……今、計画のことを考えているだろう?」
 何故、と聞きたかったユーディアだが、男に一冊の本を渡されて話は遮られた。
「この本は?」
「読んでじっくり考えろ。それからまた行動を起こすなら起こせばいい。まあでも、この建物には警戒心の強い奴が管理しているから、あまり来ない方がいい」
 そう言って男は立ち去った。ユーディアは本の表紙を見、中身をめくった。その本は、卵について書かれている。ユーディアも探したが見つからなかった、あまり世の中に出回っていない論文だった。
 その本の表紙を見ながらユーディアはその場を立ち去る。

 立ち去った男は「今後、より気をつけろよ……ヴィオラ」と街を歩きながら呟いた。男は、ヴィオラの父親だった。

 ユーディアは街から大きく外れた自宅に戻ると、男が手渡した本をめくる。貰ったことにしておいてもいいのだろうか、と思っていると、開いたページに大きな樹の絵があった。
「…………これは」
 目が見開かれる。絵の下には「世界樹」の文字があり「何故あの人はこんなもの持っているんだ……」とユーディアは一人呟いた。
 空の大陸には、卵の次に有名な世界樹という樹がある。だがその樹を見た者はあまりいないことから、大陸の住民の大半は世界中の存在を信じていなかった。
 ユーディアもその一人だったのだが、今この本を読んで確信した。世界樹は本当にある、と。
 それは世界樹の聖域の場所が書かれていたからだ。今まで読んだ世界樹に関する論文は、聖域の場所など詳しい事は書かれていなかった。
 本には聖域に入らないとわからない世界樹の場所が詳しく書かれており、ユーディアは本を持って外を出た。
 目的は聖域。世界樹を見るためだ。

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