小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 ソラはばたりと倒れる。カルサイトは暗闇でもそれがわかった。
 暗闇で何も見えないのに、カルサイトはソラを担ぎ、会釈して扉を開ける。扉が開いた先には蝋燭の明かり。背後で扉が閉まるのがわかったカルサイトは床に座りこもうとしている自分を叩いて、与えられている自室にソラを連れていく。
 先ほどのトップの能力を見て最初ここに連れて来られたことを思い出してしまい、カルサイトの顔は恐怖などの感情で青ざめていた。
 カルサイトは廊下に誰もいないことを確認し、自分の部屋に急いで入りソラを寝かせる。そうすると今まで抱えていた、感じたことのない恐怖が彼女を襲った。事件には関係がなくなったソラと対面した時から何かがおかしいと感じていたが、それは最初の気持ちだったのかと、やっと気がついた。
「ちょっと……解決までがんばりなさいよ、私」
 気絶しているソラの隣で、カルサイトは弱弱しく泣く。自分で自分を励ます言葉を述べても流れる涙は止まらない。

  ▽△

 ヴィオラとコーベライトは、翼をたたみ、走って勢いよくフローライトの店のドアを開けた。それにびっくりしたフローライトは、息を切らしているコーベライトとヴィオラの顔を心配そうに見つめた。
「なにかあったの……?」
 フローライトは心配そうに声をかける。
 二人はしばらくぜいぜい言っていたが、息をようやく整えてフローライトを真剣な目で見た。
「フロラ、たしかシルエットさんとユーディアさんは違う場所にいる。そうだったよね?」
 自分の友達の名前が出てきて何事かと思った。まさか脱走でもしたのかと思っていたが、シルエットに今そんなことをするエネルギーすらないことを思い出して「そうよ。シルエットさんとユーディアさんは別々の場所にいるの。……どうしたの?」と気遣う。
「シルエットさんとユーディアさんがいる場所を、知っていたら教えてほしいんだ」
 言ったのはヴィオラだ。フローライトは「何があったの……?」と不安そうな表情をした。コーベライトは笑って「大丈夫だよ。ただあの二人に話を聞きたいだけなんだよ」とフローライトの頭を撫でた。
 それだけ用件を話してくれれば十分だ。そう思ったフローライトは、一度自分宛てに来たシルエットからの手紙を出し、今いる場所を確認してメモを取る。
「この手紙に、ユーディアさんがいる場所も書かれていたわ……」
 フローライトはペンを握る手を走らせた。そしてシルエットとユーディアがいる場所を別々に書くと、コーベライトにはシルエットのメモを、ヴィオラにはユーディアのメモを渡した。
「できたら、でいいんだけれど、フローライトも来てほしい」
 コーベライトはそう言った。フローライトは何があったのか理解していないが、急ぎの用事なのだろうと思い、大きく頷いた。
「さすが!」
 コーベライトはフローライトの手を掴んで勢いよく飛ぶ。飛ぶ途中に「ヴィオラも何か収穫あったら教えてね!」と言った。
「ああ!わかった!」
 ヴィオラはコーベライトとは正反対の方へ飛んだ。フローライトはわけがわからないままでいたが、兄達は話してくれると思って信じた。

 ヴィオラはユーディアがいる場所に着く。勢いよく着地したせいか、周囲の人はびっくりしたようにヴィオラを見た。番をしている兵士に面会を申し出ると、兵士は少し考えた。
「今日は……なぁ」
 兵士は曖昧な答えをした。目の前にいる青年が、何故面会を申し出ているのかわからなかったからだ。
 急ぐ足を押さえてヴィオラは言った。
「お願いします……事件に関わることなんです!」
 その言葉を聞くと「事件?」と言い、ヴィオラは事情を話すと相手は特別処置を取ってくれた。
 ヴィオラが面会を申し出てニ十分は過ぎただろうか。目の前はガラスで仕切られ、会話ができるように手のひらを広げたほどの穴があいている。犯罪者が何をするかわからないから、こうして身を護るためなのかとヴィオラは考えた。
「君さ」
なかなか面会に現れないユーディアに少し苛立ちを覚え、冷静になれと自分に言っているヴィオラに話しかけるのは、先ほどの兵士だ。
「その話、本当なの?」
 言いたいことはなんとなくわかった。ヴィオラは力強く頷くと「だから、確かめたいんです」と言った。兵士はそんな様子のヴィオラを見て「最近の若い子はなんかすごいな」と言った。
 重い扉の開く音がする。ヴィオラが見た先には、衣装こそ違うものの、間違いなくあの卵狩りのユーディアだった。
「お久しぶりだね」
 そう柔らかく笑う彼の顔はなんだか疲れきっている様子だった。ヴィオラも軽く会釈し「お久しぶりです」と言う。
「今日はどうしたんだい?いきなりでびっくりしたよ」
 ヴィオラの背後には兵士が一人いるのに対し、ユーディアの背後には二人の兵士がいる。その兵士たちが見ている中で、ヴィオラはこう切り出した。
「貴方が知っている事を聞きたいんです。貴方達なら知っているかもと、あの子が言っていました」
「あの子?」
「……言葉が足りませんでした。ガーディアンです」
「ああ!あの子!」
 会話の内容が見えない兵士は置いておき、ユーディアは「あの子に会ったのかい?」と問うた。ヴィオラは「はい」と言い、時間が無いのでストレートに聞いた。
「貴方……いや、ユーディアさんは、失踪事件の犯人を知っていますか?」
 兵士達は困惑した。そして話の内容を理解した。
 一方ユーディアは「私よりシルエットのほうが詳しいかもしれないね……。一戦交えているから、余計にね」と言う。
「知っている事でいいんです。教えてくれませんか?」
「やっぱりあの学校の子達は熱心だね……」
 感心しているユーディアはヴィオラに「いいよ。私の知っている事でよければ」と言った。
「まあ、私の知っている事と言えば失踪事件の犯人のエネルギー関連の事かな」

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