小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「……大丈夫?」
 暗い闇の中で声という音が落ちた。闇が見える錯覚を受けるのは目を閉じているからで、目を開くと数本の不気味な蝋燭の明かりが部屋の一室を照らしていた。ソラは少しめまいがするものの、起き上がる。
「ソラ、特有のあの技を受けて気絶したのよ。まあ……でも、あの技を受けて気絶しない人なんかみたことないけどね」
 そばにいたカルサイトは「気絶したソラをここまで運んできたんだから」と言った。
「運んでくださったのですか……すみません」
 ソラが申し訳なさそうに言うと、カルサイトは笑った。ソラもつられて笑い、そしてカルサイトはこう尋ねた。
「ねぇ、私が貴方と達成しようって言った目的、覚えている?」
「はい、覚えています。……トップを捕まえることでしたよね」
 カルサイトの声が小さくなったので、自然とソラの声も小さくなった。それは部屋の外に誰かいるかもしれないという警戒の意思であり、カルサイトにとってはソラへの配慮だった。
「そう、目的を覚えていてくれていてよかったわ……。貴方が倒れた時、トップに操られるんじゃないかって心配したの」
 カルサイトは「よかった……」と顔を伏せ、涙をこぼした。カルサイトが涙をこぼしたことにより、自分が何か余計なことをしたのかと思い「な、泣かないでください……」と慌てた様子で言う。
「すみません、僕何か余計なことしましたか?」
「違うの……。ほら、思い出したと思うけれど、この仕事ってたいてい孤独でしょう?だからしばらく仲間がいなかった私にとっては、ソラが仲間だっていう思いがあって……それで、嬉しくて」
「そうだったんですか……」
 ソラはほっと胸をなで下ろす。それと同時にあのときにカルサイトを連れ去った罪悪感がまだ残っている。もう考えるなと言われているのに……。そう思いながらも、やっぱり自分のやったことは忘れちゃいけないよね、と心の中で思った。そう思った時にカルサイトの右手がソラの服で覆われた心臓部に触れた。
「あの……カルサイト先輩?」
「こうやって心臓の音を聞くと、ほっとするの。ごめんね」
 よく考えれば、カルサイトの触れている部分は心臓部で、なんで僕はこんなに赤くなっているのだろうかと少し恥ずかしくなった。カルサイトは手が離れる。いつのまにか心臓の鼓動がはやくなっていた。
「このフード付きのマントを着てね」
 そう言ってカルサイトはソラ専用のマントを差し出す。
「あと」
 カルサイトは口を開く。どう言おうかとカルサイトは迷ったが何度もソラに言っている言葉を言った。
「もう私を連れ去ったことは考えないで?」
 渡されたローブに腕を通していたソラは、カルサイトの最後の一言にどきっとなった。だが、過去に聞いた事のある彼女の能力を思い出して「やっぱりカルサイト先輩に隠し事はできませんね」と笑って言った。
「そうね、私は触れた相手の心を読み取る能力を持っているからね」
「隠し事、昔から無理でしたよね」
 そう言って笑い合い、簡単な打ち合わせをする。二人は打ち合わせ通りに時間差で部屋を出る。

 シルエットにより別の場所にワープさせられたコーベライトとフローライトは地面に着地した。
「どこ?ここ……」
 困惑する二人は、まず周囲を確認した。だが地図や目印になるものがないのでますます二人は不安になった。その不安からか、先ほどの出来事を思い出した。
「お兄ちゃん。あれの黒いマントの人って……」
 フローライトの次の言葉を待たずに彼は頷く。
「完全に俺達を消そうとしていたね」
 その言葉を聞いてフローライトは「狙われているのね……」と言い「助けてくれたシルエットさんに感謝しないといけないね」と言うのだった。
「本当に。大丈夫かな、あの人……」
 コーベライトも同じことを考えていた。最後に叫ぶように忠告したシルエットの顔が脳裏にうつる。二人がシルエットのことでしんみりしていると「コーベライトにフローライト!」と上空から声が降って来た。また狙われるのかと思い、二人はさっと翼を作るが声をかけた人物を見ると嬉しそうな顔をした。
「ヴィオラ!」
 その声の主はヴィオラで、青い翼をはばたかせながら降下する。二人の前立ったヴィオラは「どうだった?」と聞くが、フローライトの不安そうな顔を見て「何かあったのか?」と問う。
「大丈夫か?」
「一応大丈夫……。ただ、ね」
 コーベライトの言葉にフローライトはこくりと頷く。先ほど起こった出来事を説明すると、ヴィオラはびっくりしたものの「なるほど……」と納得した様子で言った。
「ヴィオラも何かあった?」
「いや、ユーディアさんがシルエットさんみたいに「短期決戦」と言ったんだ……」
 ヴィオラは苦笑いし「俺達、完全にマークされているっていうことだな」と言った。
「短期決戦!だね!」
 おっし、がんばるか!とコーベライトは自身の不安を消すように言った。その姿は一見元気そうなのだが、無理矢理元気を作ろうとしている様子に見えた。
「無理はしないほうがいいよ、お兄ちゃん……。ヴィオラさんも!」
「ああ、ありがとう」
「いざとなったら先生が助けてくれると思うの。だから大丈夫だって、私思うわ」
 フローライトのその言葉に反応したのはヴィオラで「そのことなんだが……」と言う。
「そうだ、俺達はないけど、ヴィオラの収穫を聞かなくちゃ」
 そう言って上空を気にするコーベライト。近くに隠れられる大きな洞窟があるのを発見し、三人は隠れるようにヴィオラの情報を聞く。
「学校の事なんだが」
 ヴィオラはそう切り出した。フローライトは「学校?」と問うと彼は頷く。
「学校になにかあったの?」
「ああ、ユーディアさんに聞いてきたんだが……どうも学校も危ないらしい」
「それどういう意味さ」
 コーベライトは身を乗り出して聞こうとするとヴィオラは唸る。フローライトは「言ってください」と言うと、ヴィオラは「そうだな……。知っておかないとだめだな」と言った。

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