小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「学校にエネルギーが多いらしいんだ」
「何の?」
「ユーディアさんは時々俺達の学校に来ていたらしいんだ。それとシルエットさんが犯人と一戦交えたということは知っているか?」
 主にシルエットと仲の良かったフローライトに尋ねる。フローライトは少し考え「私には教えてくれなかったかもしれません……」と言う。ヴィオラは「そうか……」と言う。
「まぁ、あの二人は犯人が大体わかっているというか、エネルギーだけだけど、わかっているらしいんだ。で、ユーディアさんはその犯人から出るエネルギーがわかると聞いた」
「二人共知っていたのね……」
 フローライトの言葉にヴィオラは頷き、続ける。
「そこであの二人がよく行く場所が屋上だったらしい。で、二人が屋上に行くたびに、犯人のエネルギーを感じていたらしいんだ」
 そこまで言った後、場がしん……と静まる。
「ということは……学校に犯人はよく来ていたということですか?」
「そういうことになるな」
「学校が危ないということですよね、それって」
「ああ……でもユーディアさんでも犯人の正体はわからないらしいんだ。代わりにシルエットさんは波動で気がついていたらしいんだけれど……うん」
 ヴィオラは黙る。コーベライトとフローライトはずっと彼の顔を見ていると「学校に……そんな不審者いたかなぁ」とヴィオラは言った。それもその通りだと思い、コーベライトは考える。
「仮に考えると、不審者が学校によくいたなら……もっとはやい時間で生徒が確実に被害者だよね」
「……そうだな」
 段々難しい話になって来たね、とコーベライトは言う。フローライトはふと洞窟の外を見る。
 どうしたのさ、とコーベライトが先を見ると、そこには人影。
光が洞窟の中を包んだ。
「…………ッ!」
 光が眩しくて前が見えない。光はばちばちと鳴っており、見つかったとコーベライトは思った。そして彼はこわがるフローライトを洞窟の一番奥に行かせる。
 シールドで光を食い止めているのはヴィオラで、シールドを張っているのと同時に左手にあった光の証が熱く輝いているのを見ていた。
 光が止んだ。ヴィオラとコーベライトはさっと洞窟から抜け出し、まだ中にいるフローライトを護るように出入口の前に立つ。
「全くさ、本当になんなの」
 コーベライトは不満そうに言う。前にいるのは赤い刺繍が施された黒いマントに仮面の人物。今まで見てきた者は全身真っ黒なマントで、赤い刺繍なんて目立つものをつけている者はいなかった。
 特別なんだな、こいつ。
 そうヴィオラは思った。ヴィオラは自分の光の証がすぅっと抜けるのを感じていた。証は消えてしまったな。そうヴィオラは思った。証があった手の甲がだんだん冷たくなる。
「さっきの光、威力はどんなもの?」
 小声で言い、だが前にいる人物から目をはなさずにコーベライトは言う。ヴィオラは頷き「かなり強い光だった……」と言う。
「……そっか」
 小声で作戦会議をする二人を、黒いマントの人物は見ている。
 コーベライトは「戦闘、行ける?」とヴィオラに問う。ヴィオラは「たぶん大丈夫だ」と手の甲を見る。フローライトは洞窟の中からそんな二人を見ることしかできないでいた。
 先ほどのシルエットの事もあり、ターゲットは自分達だと言うことをフローライトは感じた。フローライトは翼を生やし武器を構える二人を見ながら「私にもっと力があれば……」と呟いた。
 逃げられないこの状況で、ヴィオラとコーベライトは戦う体制に入る。それを見て赤い刺繍の黒いマントの人物は、手に光をこめた。
 先陣を切ったのはヴィオラだった。先ほどあれだけエネルギーを使ったと言うのに、彼は戦う。鎌を振り下ろし、衝撃波を打つが相手は避ける。時々ばちばちと鳴っている光をこちらに向けて打ってくることがある。ヴィオラはそれをぎりぎりのところで避け、なんとか相手の隙を狙う。
 コーベライトはフローライトを護るために洞窟の入り口を護っている。その光景は、いつしか卵を護るために戦ったのと同じような光景だと、コーベライトは思った。
 コーベライトはハンマーを振り上げ、ヴィオラに当たらないようにと衝撃波を打つ準備をする。この技を打つのはトーナメント以来だなと思いながらハンマーの先が光り、掲げる。
 ヴィオラの攻撃が上手く避けられ、少しバランスを崩す。そこに黒いマントの人物が攻撃を叩きこもうとする。コーベライトは一瞬の隙を狙って衝撃波を打った。
 衝撃波がマントの人物に直撃する。コーベライトの攻撃は電気が少し入っていたので、相手は電気で痺れる。
「今だよ!」
 ヴィオラが飛ぶ。飛んだことにより仮面の人物は上を向き、そこでコーベライトは叫んだのだった。ヴィオラは飛びながら大鎌の先端に小さなエネルギーを集めた。鎌の先端が光る。
「……はぁっ!」
 ヴィオラは相手の仮面に向かって大鎌をはらう。エネルギーの塊である光は相手の仮面に見事当たり、仮面は音を立てて二つに割れた。
「よし!」
 ヴィオラは地に降り立ち、相手の様子を伺いながら近づく。仮面を割られたその人物は、痛そうに呻いている。先ほどの電気とエネルギーの攻撃がかなり効いたのだろうか、相手は身体を丸めて電気の痛みを我慢し、顔を手のひらで押さえていた。
「今までの失踪事件とは違う奴だな?」
 そうヴィオラは問う。赤い刺繍の施された黒いマントの人物は肩が震えている。泣いているのかと思ったが、笑っている声が聞こえた。その相手の声がとても聞いた事のある声で、ヴィオラは腕をつかみ、素顔を見た。
 素顔を見たコーベライトは「嘘……」と言い、フローライトは今にも泣きそうな表情でいた。目を見開いたままのヴィオラは、尋ねる。
「キルカル先生……ですよね」
 間違いなかった。腕を掴まれて楽しそうに笑うその顔は、学校の教師であるキルカルのものだ。キルカルは腕を掴んでいるヴィオラの手を払い「ここまで行動するとは思わなかったよ」と言った。
「なんで先生が……」
 コーベライトは問うた。キルカルは答えることはなく、笑みを顔に張り付けている。そして逃げようと、天に向かって円を書いて消えようとした。
「…………待て!」
 ヴィオラは逃がすかと言った様子で捕まえようとする。だがキルカルは光をヴィオラに発し、ヴィオラは数メートル吹き飛ばされた。
「ヴィオラ!」
 コーベライトは名を呼びながらキルカルを捕まえようと走った。だが素早く逃げられてしまい、彼は茫然と立ち尽くす。それは洞窟から出てきたフローライトも同じで「なんで先生があんなことを?」と不思議で不安そうな表情をしていた。
「立てる?」
「すまない……」
 コーベライトは倒れているヴィオラを起こし、立ち上がらせる。攻撃を腹部に受けたヴィオラは咳きこみ「学校に行こう。信じてもらえるかはわからないけれど、行こう」と言った。
「そうだね。行こう!」
 まだ他に襲撃が来るかもしれない。そう不安に思いながらコーベライトはフローライトの手も取って空へ飛ぶ。
三人はショックを隠しきれず、だがそれぞれ学校でどういう説明をしようかと考えながら飛んだ。
 空は夕焼けに照らされていた。

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