小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 ヴィオラとコーベライトが世界樹の聖域に入ると、二人は顔を歪めた。
「なんだ、これ……」
 真っ白な世界は変わらないのだが、世界樹が出しているエネルギーと、世界樹が吸いこんでいるエネルギーが尋常じゃないくらい多い事に気がついた。この前来た時も多いと感じていたが、今回はそれ以上だった。
 知らずとヴィオラは自分の顔を横断する傷を押さえた。痛い。そう思いながら世界樹に向かって進もうとした。その時コーベライトに腕をひっぱられる。
「あのさ、ヴィオラ」
「なんだ?」
 コーベライトはヴィオラに耳打ちする。彼のその言葉にヴィオラは賛成し、二手に分かれて移動する。
 ヴィオラは右手、コーベライトは左手から回り込んで世界樹を目指す。真っ白な世界に唯一色がついている自分達は目立つ可能性が大きいからというのがコーベライトの意見だった。
 真っ白な草木に身を隠しながら、傷を手でおさえながら歩くヴィオラ。世界樹がだんだん近くに見えて来ると、世界樹の前にいたあの少女はどうしているんだろうとふと気になった。
 もう少しだけ近づくと、ヴィオラは銀髪の一人の女性を見つけた。その女性は黒いマントをはおっていたので、カルサイトだということがわかった。
 カルサイトは世界樹に向かって何か話しているようだった。ヴィオラがもっと見ようと近づくと、対になっていたのは、あのガーディアンである少女ともう一人の人。
「キルカル先生……」
 小声でヴィオラはその人物の名を唇にのせる。遠目から見ていると、カルサイトはキルカルとガーディアンの少女を相手にしているように見えた。その場面を見ていると、カルサイトは口を動かして何を話している。遠聞きの能力はさすがに持っていないので、じっと耳を澄まして聞いていると、カルサイトの声らしき声が聞こえてきた。
「はやく捕まったらどう?」
 その言葉だけが聞こえた。他に声を発する者はいなかったからだ。カルサイトのその言葉を聞いた、フードを外して素顔をさらしているキルカルは首を横に振る。
 そしてガーディアンの少女の方に手を置き、そのまま少女を連れて逃げようと地面を蹴る。
「待ちなさい……!」
 カルサイトの声が聞こえた。それを見ていたヴィオラは、捕まえないと、と思っていると、自分の向こうの位置から黄色い光の衝撃波がキルカルに直撃した。
 カルサイトは一瞬何が起こったのかとびっくりしていると、コーベライトが木々の間から現れる。一方衝撃波を直に受けたキルカルは、少女を護るようにうずくまると「君もよくやるよね……」とコーベライトに笑ってみせた。
 その笑みは隠れていたはずのヴィオラにも向けられた。ヴィオラは「ばれていたのか」と草木の間から立ちあがると、キルカルは笑う。
 カルサイトもびっくり表情をしているが、すぐに状況を読み「ソラからの応援ね」と言う。二人は頷くと、キルカルは楽しそうに笑う。
「本当、君達優秀な士官になるんじゃないかなって、思うよ」
「話を逸らさないで!」
 そういうキルカルにカルサイトは怒ったような表情をしながら近づく。するとガーディアンである赤い髪の毛が印象的な少女がカルサイトの前に立ちふさがった。
「お願いします。攻撃とか……しないでください……」
 その少女を見ながらカルサイトは「何故?」と問う。
「私は、前貴方達と会った時に嘘を言いました」
 少女はヴィオラとコーベライトを見た。何故、と問う前に少女が口を開き「本当は能力で見えていました、知っていました」と泣きそうな口調で言う。ヴィオラとコーベライトは顔を見合わせる。
 少女はカルサイトの問いに答えず「お願いします」という言葉を連呼する。ヴィオラは少女に対して「その人は事件を起こした人だぞ」と言うと、少女は泣きそうな表情で「その事件は、私が弱かったからなんです」と言う。弱かった?とコーベライトの声が聞こえる。少女は頷くと「私がガーディアンとして弱かったから、お父さんは違うガーディアン候補を見つけようとして、事件を起こしたんです」と泣きながら言った。
「お父さん……?」
 その単語に驚いているのは三人だけではなく、お父さんと呼ばれたキルカルも驚いていた。キルカルは娘と思われる少女の頭をぽん、と叩く。少女は泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と言う。

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