小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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「何も……弱かったからじゃないんだよ」
 キルカルが優しくそう言うが、少女の瞳からは涙があふれている。ぎゅっと目を閉じ、涙を拭くと「お願いします。お父さんを許してください」とカルサイトに懇願した。
 何も言えずにいるカルサイトは、少女に「それでも、お父さんは重い罪を犯したのよ?」と言う。
「はい、わかっています。でもこの事件はお父さんが私のために起こした事件なんです。……だから悪いのは私です」
 その言葉に、その場にいた全員が黙った。ただ少女の嗚咽が聞こえるだけで、木々が寂しそうに揺れている。
「……強いとか弱いとか、そういう意味じゃないと思うんだ」
 話を切り出したのはヴィオラだった。少女はヴィオラを見、ヴィオラは優しい笑顔で少女を見た。
「どういう意味ですか?」
「お父さんは娘である君を助けたかったからだと思うんだ」
「私が弱いからですか?」
「違うよ」
 そう言ってヴィオラは笑い「親って子供が可愛いんですよね」とキルカルに言う。
「聞く限りによるとガーディアンって重要な役目なんだよね?」
 ヴィオラの言葉に「そうです」と頷く少女。ヴィオラは「じゃあ、余計に助けたくなるな」と言う。
 ヴィオラは自分の顔を横断している傷を指して言う。
「俺のこの傷は、俺の両親が俺を助けようと思ってつけたものなんだ」
 そう言って昔話をはじめる。教えてくれた、その人が言ったように。
「俺の中には膨大なエネルギーがあったんだ。最初傷の話を聞いた時は「なんてことをしてくれたんだ」と思っていた。でも両親の心境がなんとなくわかって……両親は俺に生きる道をあげるためにあえて傷をつけたんだって、今はそう思う。エネルギーをたくさん抱えている子供はどの道、短命だと言われていたからな。その問題が面倒だったら放っておいて、死という道も選べたはずだ。でも俺は生きる道をもらった」
「それと私がどういう関係があるんですか?」
「うん。結論から言うと、娘である君をガーディアンから降ろして助けたかったんじゃないかな。弱いとかそんな理由じゃなくて……こう、降りたらずっと一緒にいてやりたいとか、そんなかんじの理由。だからさっき君が言ったようにガーディアン候補を探すために事件を起こしたんじゃないかなと、思う」
 あっていますか、先生。そうヴィオラが言うと、キルカルは「そう、そうだよ……」と言って娘の肩に手を置く。
「八歳の頃からなんだよ。この子がガーディアンになったのは」
 そう言って遠い昔の記憶をキルカルは探った。
「ガーディアンの素質があったみたいでね、ガーディアンになることができたのはいいけれど……もう少しこの子の傍にいてあげられたらよかったという考えが膨らんできて、今回このような事件を起こしてしまったんだ……」
「正式な方法で選ぶことはできなかったんですか?」
 コーベライトの問いにキルカルは「ガーディアンを選ぶ試験のようなものは公にされていなくてね……突然言われて連れて行かれるんだ。でも当時の私達はそれに賛同してしまった」と言い、顔を伏せた。
「そういう理由があっても、今回の事件は起こしてはいけないものよね?」
「そうだね」
 カルサイトの問いにキルカルは笑って答えた。そして娘をぎゅっと愛おしそうに抱きしめると「また会いにくるよ。罪を償ってガーディアンの期間が終わるまでは、毎日来る」と言った。
 そう言ってキルカルは両手を出す。カルサイトはキルカルが出した手を掴んで笑って言った。
「今、この場で貴方を逮捕します」

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