小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 エピローグ


 世間を騒がせた失踪事件は解決に向かっていた。空の大陸にちらばった愉快犯や無理矢理やらされていた関連者は、解決と同時に関わっていた記憶を失くしていた。失くしていたほうがいいだろうと、失踪者を見つけたとある人は言っていた。
そのような記憶は失くしていたほうがいいのか、思い出させるべきなのかという問題が未だに論じられている。そんな討論番組をラジオで聞いていて、首を傾げている人を何人も見かけている。今もそうだ、街中を歩くと失踪したと思われる人がラジオの内容を聞いて「こんな事件、いつあったっけ?」と言っている。街の人々を見ていると、家族との再会を喜んでいる人もいれば真実を話すべきなのかと悩んでいる人がいる。
 先ほどのラジオを聞いて首を傾げていた男の子をちらりと見、その姿に痛々しいものを覚えてヴィオラは学校の門をくぐる。
 グラウンドが見えた。そのグラウンドで行われていた実技トーナメントは「ふさわしくない」ということで、廃止になったと聞いた。聞くと、なんでもそのトーナメントでガーディアン候補を探していたらしい。最初にそれを聞いた時、ヴィオラはキルカルを怒りたくなった。だが、今「それがふさわしくない」ということがキルカル自身もよくわかったので、納得の上での廃止だった。
「ヴィオラ君、おはよう」
「おはようございます……ソラ先輩」
 ヴィオラの隣には卒業を控えたソラがおり、一緒に学校に入る。
 ソラがあの事件に関わっていたということは、ヴィオラとコーベライト、そしてフローライトと先生達しか知らない。そのことでソラは「罪を償った方が良いのでは?」としばらく悩んでいたが、最近顔がすっきりしている。いい事でもあったのか、それともふっきれたのかと思っていると、ソラはヴィオラを見ながら笑ってみせた。
 ヴィオラはソラと分かれて自分の教室に入る。「おはよう」と声をかけられ「おはよう」と返す。席につく途中に「ヴィオラ」と呼ばれたので、向くとクラスの問題児だったガルゴがいた。
「……おはよう」
 ぎこちなく言うガルゴに笑いかけながら「おはよう」と返す。
 席につくと、先に来ていたコーベライトにも「おはよう」と言って席につく。コーベライトはヴィオラに「今日ソラ先輩と来たでしょ。ここからよく見えていたよ」と笑顔で言う。よく見えたなと思っていると、コーベライトは「あ」と言う。
「どうした?」
「いや、ソラ先輩で思い出したんだけど、昨日に先輩が「ヴィオラ君も連れて屋上でしゃべろうよ」って言っていたよ」
 そう言ってコーベライトは笑う。

「お前、大活躍だったな」
「そうかしらぁ?」
「さすが裏のプロだな」
 シルエットは罪を償うために牢屋の中に入れられていた。だが見張りの兵士が失踪事件の解決を知ると、真っ先にシルエットに知らせに来た。兵士の話す内容は「すごいな」と連呼するだけだったが、シルエットは「解決したのねぇ。よかったぁ」と言う。
 今日もその話を見張りと兵士としていると、別の兵士がやってきて「今日は面会の日だろう?」と面会室に連れて行かれる。
 面会室のガラスで分けられた先を見て、シルエットは笑顔になる。
「フローライト!」
「シルエットさん!……また会えましたね!」
 面会を申し出た人物こと、フローライトは同じく笑顔になる。シルエットは椅子に座り「元気そうね」と言う。
「はい、私は元気です。……そして失踪事件の捜査協力、ありがとうございました!」
 そしてフローライトは「手紙を、渡してください。お願いします」と兵士に手紙を差し出す。それは兵士にチェックされているらしく、封筒は切られていたが、手紙は遠回りしてシルエットの元へ届く。その差出人の名前を見、そして中身を見ると……シルエットの瞳から涙があふれ出した。フローライトはそれを笑顔で見つめている。
「フローライト。ありがとう……本当にありがとう」
 そういって涙を拭う。感謝の言葉を、どう言っていいのかわからないが、シルエットは「ありがとう」という言葉を繰り返す。フローライトは微笑みながら「心配していましたよ」と言った。

 フローライトにシルエットへの手紙を預けたのだが、届いただろうか。
 そう毎日考える。途中で捨てられることはまずないだろうが、中身はチェックされているなと思う。牢屋の中にいるユーディアは天井を見上げ……愛する人の名前を唇にのせた。
「シルエット……」
 そう言うと、ユーディアの顔は自然と笑顔になり、この先何があってもがんばろうと思うのだった。

 セレスタイトは、目の前にいる人を見て驚いている。それは失踪したはずの姉で、セレスタイトは思わずカルサイトに抱きついて泣いた。
「姉さん、姉さん……!」
 カルサイトは泣きじゃくる妹の頭を撫でて「ただいま」と言う。

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