小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 日は夕日に変わる。穏やかな光が学校を照らす。
 ソラに声をかけられたヴィオラとコーベライトは屋上に行き、ソラを見つける。
「ソラ先輩!」
 二人は駆け寄る。呼ばれて振り返るソラは、なんだか寂しそうな顔をしている。どうしたのかと思ったヴィオラは「どうしたんですか?」と問う。
「いや……もうすぐ卒業だなって」
「…………あ」
 その言葉にヴィオラとコーベライトは顔を見合わせる。そういえばそんな時期に入るんだっけと、ヴィオラは思った。
「卒業する前に、二人と話がしたいなぁ……って思って」
 そういって「最後まで身勝手でごめんね」と笑う。
「身勝手なんかじゃないですよ……」
 そう言うコーベライトに、ソラは笑いながら「ありがとう」と言う。二人はソラを真ん中に、柵に手をかけた。ヴィオラは、そういえばソラ先輩は四年生だから、卒業なんだなと思う。そんなことを考えていると、同時に寂しくなった。
 その心は一緒だったのか、コーベライトは「ソラ先輩が卒業したら寂しくなりますね」と言う。ソラは夕日を見つめながら「僕も寂しいな」と言った。
 ヴィオラは静かに頷く。三人が黙り、時々話す。こんな時間がずっと続けばいいのにと思っていると、ソラが「言いにくいんだけど、一応言っておくね」と話を切り出す。
「僕の進路、決まったよ」
 その言葉に二人はソラを見る。だが喜ばしい出来事なのに、ソラは何故か寂しそうな顔をしている。「進路はどこになったんですか?」とコーベライトが問うと、ソラは「驚かないでね」と言った。
「ほら、僕、失踪事件に関与したでしょ?だから、別の世界で償いって言うか……そんなかんじの仕事をすることになったんだよ」
 意味がわからず、コーベライトはぽかんとした表情になる。ヴィオラも意味がわからず「別の世界……ですか?」と問う。
「うん、別の世界。ここの、空の大陸ではない世界に行くことになったんだ。……二人にはしばらく会えなくなるね」
 ソラは寂しそうにそう呟いた。コーベライトは「別の世界……」と呟くと、ソラに向かって「いつか帰ってきますよね」と尋ねた。「うん。いつかは帰ってくる……けど、いつになるかはわからないんだ」
 ごめんね、とソラは言う。そんなソラを二人は見ていることしかできず……だが、二人は同時に「がんばってください!」と言った。
 その、重なった同じ言葉と同じ気持ちに、ソラは驚いたような顔をする。
「この空の大陸に帰ってきたら、また話しましょう!」
「そうだね!ソラ先輩が帰ってくるまで、俺達がんばって戦闘で足ひっぱらないように力つけときますから!」
 そう言って笑う二人に、ソラは笑って「ありがとう」と言い、次に寂しそうな顔をして涙を流す。
「先輩。先輩には涙は似合いません。笑ってください」
 ヴィオラにそう言われて涙を拭い、ソラは「ありがとう」と再度言った。
「ヴィオラ君もコーベライト君も……卵の世話、がんばってね。応援しているから」
 そうソラに言われ、ヴィオラとコーベライトは顔を見合わせ、次にソラの顔を見て「はい!」と元気よく言った。
「あ、あと実はですね……」
 ヴィオラが持っていた鞄の中から、小さな卵を一つ取り出す。
 ソラが首を傾げて「それは?」と問うと、ヴィオラとコーベライトは楽しそうな顔をして「見ていてください」と言う。ヴィオラはその小さな卵をすっかり暗くなった星空に掲げた。
 卵は光を青い光を帯び、次にパァン!と破裂するような音で小さな光の蝶が飛びたって行く。
「先輩、先輩の卵が孵化したときにいいましたよね」
 ヴィオラはソラに笑いかける。
「俺達、覚えていますよ、先輩の言葉。「蝶は卵にいる間、不安に押しつぶされそうになってまで育っている。でも彼らは強く生きている。だから僕達も……あの蝶達のように強く生きなくちゃ」っていう言葉」
 その言葉にソラは「そんなことを言ったね」と泣き笑いのような表情をしながら言った。
「そうだね。強く生きなきゃいけないね」
「だから俺達は、先輩が強く生きていることを信じて、自分もがんばります。だから……」
 再会したら、またここで話をしましょう。

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