小説『Butterfly Dance Night -完』
作者:こめ(からふるわーるど)

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 この世界には「空の大陸」と「地上」がある。
 空の大陸は我々が住んでいる大陸で、特別な翼を持つことが許されている。そしてその翼は機械であり、赤子の産まれた時から背についているのではない。その翼は赤子産まれてしばらくした赤子に翼の種を付着させ、翼と赤子は共に成長する。
 一方地上の人間には空の大陸の人間のような翼を持っておらず、地上の人間で空の大陸の存在を知っている者は少ないであろう。地上の人間と空の大陸の人間にどうしてこのような格差があるのかは、未だ解明されていない。
 ある研究者によると「翼の種は空の大陸にしか存在しない」という話だ。
 そしてその翼の種の居所は……
「……ねみぃ」
「ちゃんと起きていろよ……」
 教科書で小さい声のボリュームをさらに下げた声でコーベライトに言う。ヴィオラの心の中では、ソラ先輩みたいになるんじゃなかったのか、徹夜をしたから今眠いんだ、今日の捜索大丈夫か。と、言いたいことが渦巻いている。コーベライトは教科書を盾に欠伸を隠しながら授業を受けていた。ヴィオラの目は教科書に集中していたが、隣のコーベライトのおかげで意識は集中できないでいた。ふと隣を見ると、彼は半目になってうつらうつらといつ眠ってもおかしくない状況だった。
 肩をゆさぶるべきか、ペンでつついて起こすべきか。そう迷ってコーベライトをちらちら見ていると、考古学の先生が「ヴィオラ、そこのページの三行目から。読めるな?」と怪しい行動がばれて見事に当たってしまった。
 返事をし、立って教科書を読む。
 静かな教室ではヴィオラの声が響く。読んでいるページは昔から伝えられている空の人間にある翼の話で、幼いころから両親に何度も聞かされている話だった。
 そういえばこんな話をよく聞かされていたな、と思いながら読み終えて着席する。先ほど読んだ教科書のページを読んでいるとある事に気がついた。
「…………うわ」
 小声で教科書で声を抑えつつ、ヴィオラは言った。
 考古学の先生は年配の先生。授業はわかりやすいが、とても厳しいことで有名だ。その先生の手のひらには何本かのチョークがあり、目はコーベライトを見ていた。
「たるんどるぞ、コーベライト!」
「あでっ!」
 先生の投げるチョークが見事にコーベライトの額に命中した。彼は痛そうに額を抑え、涙目で「先生、何するんですか……」と呟くように言った。
「お前が授業始まったときから欠伸ばかりしているのが悪い!だから最近たるんどるんだ!」
 大きな声で説教をする先生。そんなコーベライトを横目で見つつ、ふと教室を見回すと、教科書で顔を隠して笑いをこらえるのに必死な生徒が何人かいた。そして「あいつ馬鹿だなぁ」と思っているのか、苦笑いしている生徒もいた。その様子を見ながらヴィオラは苦笑する。
 先生のお説教で残りの授業時間がなくなり、授業終了のチャイムが鳴った。
 考古学の先生が授業の終わりを告げると、生徒はバタバタと次の授業がある教室へ向かう。コーベライトは先生がいなくなったことを確認すると「あの先生怒ると怖いんだよな」と小声で言った。
「いや、でも先生の気持ちもわからなくはない」
「なんだよー!ヴィオラは先生の味方するのかよ?」
 次の授業は二人別々なので別の教室へ向かうのだが、教室までの道のりが少し一緒なので話ながら移動する。コーベライトのチョークが命中した額はまだ赤く、ちょっとだけまだ痛そうだなと思った。軽口を叩きあいながら校舎内にある中庭を通る時にある人物とすれ違った。その人物は急ぎ足で、さっとヴィオラとコーベライトの脇を通り抜けて行った。
「あれ、ソラ先輩?」
 声を発したのはコーベライト。ヴィオラもソラを目で追う。ソラの表情は不安そうな表情をしていた。ソラが遠くに行って角を曲がるのを見届けて言った。
「どうしたんだろう?」
「さぁ……急いでそうだな」
 首を傾げて「先輩は次の授業に遅刻しそうなのかな?」とコーベライトは言った。急いでいる理由が少し気になったが、自分たちが知ることではないと思いながら二人は別々の教室に入って授業を受ける。

「わぁ……よかった無事で……!」
 誰もいない植物を育てている校舎の中に入ったソラの第一声はこの言葉だった。ソラはその校舎の真ん中にある大きな葉っぱで背の低い木に近づいた。葉を優しくどかすと、そこにはアクセサリーのついた卵があった。それはヴィオラとコーベライトが昨晩世話をしていた卵と同じようなものだった。

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