小説『短編集』
作者:クロー()

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−お父さん−



俺はやっと、ゲームの最終ボス戦手前までやってきた。

そのボスは黒いいかめしいお面と黒いマントと黒い衣服を身に着けていた。

ここまで来るのに俺はどれほど苦労したことか。

何度もページをめくったゲーム本はかなりぼろぼろになっていて、このゲームのために割いた時間は膨大。エネルギーも膨大。なかなかクリアするのに骨を折るゲームだが、
世界を守るために戦う快感はバーチャルとはいってもたまらない。



そして俺が何度もボス戦前のムービー前のセーブポイントに戻ってムービーを省きながらボス戦に挑み、
丸2日かけてなんとかボスを倒した後だった。

お待ちかねのムービーが始まった。


なんと、ボスのお面が外れ、生の人間の顔が現れた。
『ふ、ふ、ふ、俺が誰だか分かるか (Ha,ha,ha, Do you know who I am?)』

(わからねぇよ、俺はこの林家の長男である近所の中学に通う中学生だよ)

『俺は貴様の父親だ (I’m your father.)』

(な!?)

画面まるごとプレーヤーの視界のゲームでそんなことを言われるとは、予想外だった。

すると、その「父親」と名乗り出た、すっかり俺から受けた打撃で弱りきりへなへなと近くにあった手すりにしがみつきながら立ち上がった男は、急に黒い悪魔の大きな羽を背中に生やし、

見たこともない女の人を連れて天空のかなたへと消えて行ったのだった。


いろいろな謎を残したままゲームは終了してしまった。いろいろコントローラをいじくりまわしてみたが、ENDを示す画面が微動だにしない。



クリアしたのに後味悪すぎてむかついて俺は思わずコントローラをゲーム機に投げつけた。
幸いゲーム機は壊れずに済んだ。



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