小説『短編集』
作者:クロー()

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私は公立の共学に通っている高校生だけど、結構先生に目をつけられている。

これは悪い意味ではなく、先生にとって、対等な存在に近いということ。

友達に親しみを持たれるのと同じように、彼らと私自身の教育に携わる大人にも親しみを持たれているようだ。それは、私に話しかけるときの言葉遣い、雰囲気や目つきやしぐさでなんとなく分かる。


それは、たぶんやはり、真面目に自分の話を聴いて勉強している生徒は先生に気に入られる。私は先生に気に入られたいわけではなく、ただ単に勉強しておかないとなんだかあとで後悔することになりそうで嫌だからなのであるが。
それだけではなく、私は他の生徒のように生徒に注意をする教師を見境なく嫌ったり、逆に敬遠して彼らを突き放すということはしない。教師も人間なのだから生徒の知らないところで悩んでいるだろうし、生徒と友達になることだってあって当然だと思っている。だから、私と接する時、教師たちは一旦気持ちが落ち着くのかもしれない。



音楽会でオーケストラの演奏を聴きに近くの演奏ホールに行った日、私は今私たちのクラスの生物の授業を受け持っている先生とプライベートな話をした。


たまたま、左隣りから先が先生たちの席で私の右隣りの友人は風邪でお休みだった。ちなみに、席は出席番号順で、あらかじめ席の交換をしていたようだ。とても残念だったが先生と話のできる機会にはなった。


高校生ともなると色気づいてくるのか、あちらこちらでカップルが見受けられる。カップルとはいっても、くっついては離れくっついては離れの連続だ。だから、誰々と付き合っているはずの誰々が二股をかけているのかと思ったら、片方とはもうとっくに別れていたということがよくある。音楽は友達と聴きたいという人がほとんどだが、時々カップルで聴いている。大人しくあらかじめ決められた席で音楽を聴いて休み時間に彼氏彼女のところに行って話をする人もいる。



休み時間の多くの人の浮かれ様を見てふと私は生物の先生に質問を投げかけてみた。

「先生って彼氏いないんですか?」

「え?そりゃあ、この仕事やってるとなかなかねぇ・・・」


苦笑いする先生。先生は切れ長でも形の整った目をしていて、確実に美人の部類に入ると思う。

「でも、欲しいとは思ってますよね?」

「うん、まぁね」

やっぱり。

「でも、みんないろんな男の人をキープしておくし、私自分から積極的に出られないから」


なるほど。恥らっているあたり嘘ではなさそうだった。

だから先生になったのかーと、先生を責めたいような気持に一瞬なったが、先生も人間、学校でさえこんだけ浮かれポンチであふれ返っているというのに、そうやって冷静でいられるだけ立派だなと思った。



その後先生がトイレに行ってしまったからこの話はそれで終わりになった。



音楽会からの帰りの駅で、別の生物の先生に会った。男の先生で、別の意味で私に目をつけている人だった。私が出て来るころを見計らって駅にいたのだろうと思う。
もしかしたら、この人は、音楽会で話をした渡部先生のキープ範囲内に入っているかもしれないと思った。


渡部先生との関係の崩壊の危機を感じた。





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