小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第七話 『車椅子の少女』

             





「ルシフェルさん!?」

「そんな……母さん、どうして……?」

「ぐ、がぁああああああ!?!?」

 痛い、熱い、苦しい。

 まるで雷が全身を貫いているような感覚だ。

 いや、実際は雷に近い物なのだろう。

 紫色の電気が俺を襲っているのだしね。

 だが、シールドも間に合わずに俺は直撃を受けた。

 装甲にダメージは無い。

 ただ、痛みがフィードバックされる。

 装甲にダメージが無いのは、この機体の装甲にはS・S・A(セルフ・サポーティング・アーマー)が使用されているから、電力を供給されれば装甲は修復される。
(詳しくはwikiで)

 しかし、本当に痛い。

 いくら自分が望んだからと言って、電気までダメージを喰らうとは思わなかったな。

 コイツの装甲がほぼ完全に俺の皮膚と同義だ。

 幸いなことにバーニアに問題は無かった。通常通り稼動している。

 変態科学者共め……こうなることでも想定してたのか?

「……え? 今……」

 あ、やべっ……声が聞こえたか?

【私は大丈夫です。早くアースラへ退避しなさい。先ほどの攻撃がまた来るかも知れません】

「は、はい!」

 俺は周囲の警戒を怠らずにリンディ提督に繋いだ。

【リンディ提督、すぐに高町さん達を収容しなさい】

『分かりました。ただ、こちらも攻撃を受けて混乱しています。数分待って下さい』

 向こうも攻撃を受けたのか?

 っていうか、さっきテスタロッサが母さんって言ってたな?

 もしかして……テスタロッサの母親の仕業か?

「くっ!」

 そして、困惑していたテスタロッサだったが、彼女はすぐに我に戻るとジュエルシードがある場所まで飛んでいった。

 この期に及んでまだそれを狙うか……。

 勿論俺は管理局に協力関係なので見過ごせない。

 ゼロシフトは起動せずにバーニアだけで加速し、テスタロッサと同時にジュエルシードを確保した。

 俺が確保したのは三つ。そしてテスタロッサも三つだ。

【それをこちらに渡しなさい。】

「…………」

 テスタロッサは俺を睨んで返答した。

 渡す気は無いらしい。だが、身体は震えている。勝てない事が分かっているからだろう。それでも彼女は母親の為に必要なのだろう。

 ……ふむ、だがこのまま逃がすのは頂けない。態々こちらの不利益になるようなことは…………いや、少し面白い事を思いついた。

【……いいでしょう。今回は見逃します。ただし、次はありません。必ず貰い受けます】

「……? 見逃すと言ったけど、その言葉に嘘は無い?」

 テスタロッサが訝しげに聞いてきた。

 勿論、今回は見逃すよ。

【戦いたいのですか?】

「っ! いいえ……。それじゃあ行かせてもらうから」

 俺が『Akatuki』をちらつかせて問うたらテスタロッサ達はすぐに逃走した。

 そこへリンディ提督がモニターを出して詰問してきた。

『ルシフェルさん、一体どういうことですか!? 何故彼女を逃がしたのです!?』

 うるさい、目の前で大声を出さないで欲しい。っていうか落ち着け。

【落ち着きなさいリンディ提督。貴女は主犯を捕まえたいのでしょう? 私に考えがあります】

『考え……?』

【はい。詳しい話はそちらに戻ってからします】

 そして俺はアースラへ転移させてもらった。





 あれから二日が経った。俺が提案したのは囮。高町とテスタロッサをジュエルシードを賭けて決闘させる。高町が勝ったら恐らく先ほどのように攻撃、もしくは強奪して来るだろうから敵本拠地の座標をアースラの連中に解析してもらうという内容だ。

 勿論、高町が負けたら俺がテスタロッサから強奪すればいい。俺は規格外の戦闘力だから彼女の母親が必ず出張ってくる。
 ……数千万人を虐殺したんだ。今更この程度の悪役ぐらいどうってことはない。

 そして俺は今、一つの問題をどう対処するか悩んでいる。

「さて、それにしても暇だ……」

 そう、暇なのだ! 作戦の日にちは明日だ。それまで暇なのである。ナインボール・セラフのシステムチェックは全部ルシフェルがやってくれるし、買い物は先日済ませた。街の地形もおおよそ把握したし、鍛錬は毎朝している。

「……はぁ、仕方ない。暇潰しに図書館でも行くか……」

 俺は仕方なしに図書館へ向かった。




 到着。

「さて、神話関係の本は……」

 俺は目当ての本を探す。神話関係は俺が結構好きなので前世ではよく借りていた。

「っと、あったあった。……ん?」

 俺はふと視界に入った少女を見た。その子はショートヘアで車椅子にのった子だ。あの歳で歩けないのは大変なんだろう。

 女の子は一生懸命に手を伸ばして本を取ろうとしている。あと少しで届くか届かないかの所だ。そこで俺は女の子と目が合ってしまう。

 瞳を子犬のように潤ませてこっちを見ている。


  1,ジッと見つめる

  2,本を取ってあげる

 →3,華麗にスルー   


「さて、受付は何処だったかn―――「ってちょっと待てや!!」……何?」

 俺が華麗にスルーしようとしたら俺の服を掴んで引き留めた。

 ……っていうか車椅子なのに、今の一瞬でどうやって此処まで来たんだ?

「こんな可愛い美少女が困っとるのにスルーは無いやろ、スルーは!?」

「いや、自力で取れるかなーと思ったから……」

「いやいやいや! ウチ、明らかに助けを求めとったよな!? 君、目が合ったのに無視したよね!?」

 チッ、バレたか。

「キノセイダヨ」

「なんで棒読みなんやねん! 自白しとるようなもんやろ!」

「はいはい分かった分かった、取ってやるからそう騒ぐな。周りに迷惑だぞ?」

「え? …………あ」

 周りを見ると全員がこっちを睨んでいる。……かなり怖い。

「で、どれを取って欲しいんだ?」

「あぅ……えっと、あの上から二段目にある『傲慢な魔法使いと哀れな使い魔』っていう本なんやけど」

「ああ、あれね……。はい、どうぞ」

 なんかタイトルが暗いが……面白いのか?

「おおきに」

 少女は受け取ると礼を言ってきた。

「っていうか、お前って保護者か付き添いはいないのか? 車椅子で一人はキツイだろ?」

「ああ、ウチは両親が大分前に亡くなったからおらんのや。友人もこの足で学校に行かれへんからおらんのよ」

 少女が苦笑して言った。

 ふむ……地雷を踏んだか? いやはや、ここまで明るい少女がそこまで苦難の人生を歩んでいるとは思わなかった。中々芯の強い奴だ。

「悪い事を聞いてしまったな」

「別に気にせんでええよ。もう昔のことやし、両親の顔も覚えとらんから……」

「そっか。ならいいのだが……」

 少女が車椅子を押して自分が陣取っていた席に行く。だが、俺はそこで驚愕した。

 何故か? それは……本がタワーを作っていたからだ。

「おい待て。もしかしてそれを全部借りるのか!?」

「ん? そうやけど……それがどうしたん?」

「いや……持って帰れるのか、それ?」

「…………」

 おい、何でそこで黙る!? もしかして考えてなかったのか!?

「…………はぁ。家まで運んでやろうか?」

 仕方ないので手伝うことにした。ここで逃げたら後味が悪い。

「ホンマに!? ええの!?」

「仕方ないだろう? こんなに大量に本があったら一人じゃ無理だし、無視して帰ったら流石に俺でも後味が悪い」

「う゛っ…………すんません……」

 さて、仕方ないから運んでやろう……

 そして俺は本を両手に抱えて少女の家まで運んでやった。

「そういえば名前をまだ聞いとらんかったな」

「名前? 別に名乗る必要もないと思うが?」

「名前を知らないと何て呼んだらええか分からんやん?」

 大体、今日は偶々此処にきただけだ。もう会うことは無いと思う。

「俺が図書館に来たのは偶々だ。もう会うことの無い相手の名前を聞いてもしょうがないだろ?」

「……え?」

 俺がそう言うと少女は驚いた後に悲しそうにした。

「もう……会えへんの?」

 う゛っ……涙目で言われると結構キツイ……。

「ウチ、友達おらんから君と話すの結構楽しかったんや……。本当は友達になって欲しかった。それも……アカンの?」

 少女の瞳から涙が伝い落ちる。

 うぐぐ……!

「……分かった。分かったから泣くなよ……。友達になってやるから……な?」

「え……? ほ、ホンマに……?」

「ああ。だから泣くな」

「……うん! あの……ありがとうな? ウチの名前ははやて……八神はやてや!」

「俺は篠崎煉だ」

 先ほどの泣き顔とは一変し、少女……もとい八神はやては眩しい笑顔で名乗った。

「煉君やね。えへへ……」

 まったく……何で俺はいつもこうなるんだ?

 そうして俺達は他愛ない話しながら八神の家に着いた。

「ここやで」

「随分立派な家だな。羨ましい限りだ」

「べ、別にそんな立派なもんやないと思うけど……?」

 ほほう? それは俺に喧嘩を売っているのか?

「何言っているんだ? 家があるだけで十分立派だよ」

「……え?」

 俺はつい言葉を漏らしてしまった。

「煉君って……両親はどうしとるん?」

「あ? とっくの昔に死んだよ」

「え、あ……ご、ごめん……」

「別に謝らなくてもいいが……」

 俺も聞いてしまったからな。

「えっと、じゃあ……家は一人で? ってか何処に住んどるんや?」

「当然一人だ。そして俺はあそこに住んでる」

 俺はここから見える山を指さして言った。

「……え゛!?」 

 そして八神は固まってしまった。何故だ?

「もしかしてとは思うけど……家は……?」 

「無い。一応テントを張って生活はしている。風呂は銭湯だがな。因みに食事はカップ麺だ」

 そこまで言うと、八神は俯いて黙ってしまった。

 ……どうしたんだ?

「…………かん」

「ん?」

「アカン! そんな生活はアカンで!」

 うおっ!? 急に叫ぶから驚いた。

「いや、そういわれても……?」

「よし、決めたで! 煉君、今日からウチと一緒に暮らすんや!」

 …………はいぃいいいい!?

「ちょ、待て! 何でそうなる!?」

「何でもクソもあるかいな! そんな不健康な生活してたらアカン! いつか病気になるで!?」

 いや、そこまで大袈裟なことじゃ……。

「兎に角、此処に住むこと! ええか!?」

「いや、倫理的にどうかと思うんだが?」

「そんな間違った考えは捨てや!」

 え? 倫理的にどうかと思う俺は間違っているのか……? ってそんな事があるかっ!!

「ほら、早う入ってや!」

「え? ちょ!? ちょっとぉおおおお!?」

 そして俺は八神家に引きずり込まれていった……。

 ……何故こうなる?


-9-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法少女リリカルなのは (メガミ文庫)
新品 \578
中古 \1
(参考価格:\578)