小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

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第十二話『救出』



                     





 蒐集を開始してから一週間が過ぎた。現在のページは73ページ。目的の666ページまでまだまだ先だが、焦って集めてはならない。

 別の次元世界の魔法生物を襲って蒐集しているのだ。いくら魔導師から蒐集していないからと言っても、時空管理局なら必ず出張って来るだろう。

 彼らの世界での法律は知らないが、十中八九見過ごせる物ではないと推測出来る。だから、蒐集は慎重に且つ迅速に行う。

 ただ、問題が無い訳ではない。以前から感じていた視線の正体が未だに分からない。ここまで探っても分からないのならば恐らく人ではないのだろう。

 使い魔……俺が思いつくのはそれだけだ。サーチャーならとっくにルシフェルが気づいているはずだ。ならば、人間以外の動物を対象に索敵する必要があるな。

「それでね煉君……今度家に遊びに来ない?」

「…………」

「煉君?」

 おっと、いけない。つい考え事に夢中になってしまった。

 俺は現在月村すずかと道端で出くわし、立ち話をしていた。

「え? ああ……そうだな、暇だったら良いが?」

「うん、約束だよ? その時は私の友達も来るから」

「アリサか?」

「うん、それとなのはちゃんっていう子もだよ」

 …………え?

「……名字は?」

「え? 高町って言うけど?」

 …………マジかぁ。それは嫌だなぁ……。でも変に断ったら怪しまれるし既に約束してしまったしな……鬱だ。

「あの……どうかしたの?」

「いや、何でも無い」

「そ、そう? なら今度の休みに来てね」

「ああ」

 そして俺はすずかと別れると考えに耽った。まあ、バレてもいないから会っても問題無いから大丈夫か?

 だが、ここで事件が起きた。

 突然黒いワゴン車が猛スピードでこっちに向かって来て、甲高いブレーキ音を響かせて停車。車から黒ずくめの男が三人が出てきた。

「え? きゃあっ!?」

「大人しくしろ! おい、早く乗せろ!」

 そいつらはすずかを車に無理矢理乗せようとしている。恐らくこれが誘拐って奴なんだろう。

「このガキはどうする?」

「面倒だが、連れて行く。いざとなれば人質ぐらいにはなるだろうからな」

 おいおい……俺も誘拐するのか?

「お? コイツ、抵抗しねぇぞ?」

「車内で暴れられても面倒だ。気絶させろ」

 バキッ

 俺は警棒か何かで後頭部をいきなり殴られる。

「ガッ!?」

 ……こ……の……野郎……後で……覚えとけ……よ……?

「い、いやぁああ! 煉君!? 煉くーん!!」

 俺は暗転する意識の中、すずかの悲鳴が頭に響いた……。









「ごめん、なさい……ごめんなさい、煉君……うぅっ」

 誰かの啜り泣きが聞こえた気がして俺は意識を覚醒させた。

 ……ここ……は……倉庫か? ……ああ、そうか。俺……すずかと一緒に誘拐されたんだっけ? 

 いつっ! …………っの野郎……頭を殴りやがって……。後で絶対に殺す。懺悔も命乞いも出来ないぐらいに痛めつけてやる!

「……っ……痛ってぇ」

「っ! 煉君! よかったぁ……大丈夫?」

 いや、大丈夫じゃないから。

「後頭部を殴られて大丈夫な奴はいねぇよ」

「あっ……その、ごめんなさい……私のせいで……」

 俺が愚痴を漏らすとすずかはシュンッとなって謝ってきた。

「あ? ああ、別に構わねぇよ。気にするな」

「でもっ!」

「黙ってろ。それ以上の謝罪の言葉は必要無い。どうしようも無かったんだから」

「……うん。……ありがと」

 すずかは目尻に涙を溜めて礼を言ってきた。

 すると、俺達から少し離れた所から笑い声が聞こえてきた。

「ひゃははっ! 金の割には結構ちょろい仕事だったな?」

「ああ、こんな仕事ならいくらでも引き受けてもいいぜ」

 コイツらはさっきの誘拐犯だ。数は五人。周りを見渡すと、二階に通じる階段があるだろうから上にまだいるかもしれない。

【この建物は三階です。一階に五人、二階に三人。そして三階に一人と人造人間と思わしき反応が四体います】

 流石はルシフェルだ。さて……すずかを狙った事から、裏関係……恐らく『夜の一族』の問題だろうな。三階にいるのは吸血鬼として、二階とコイツ等は人間だな。
 恐らく雇われたんだろう。

「おい見ろよ。ガキが目を覚ましたみたいだぜ?」

 そして男達がこっちへ歩いてきた。男達の内、二人は拳銃を所持。残り三人はサブマシンガン……恐らくUZIとスコーピオンだろう。

「れ、煉君を離してください! 目的は私なんでしょ!? 彼は関係ないの!」

 すずかは気丈に振る舞って男達に言うが、身体が震えている。俺の手をギュッと握りしめているから分かる。

 まったく……どれだけ優しいのやら。

「はっ! そんなこと知るかよ。お前が((人・))に近づくのが悪いんだろ? 化け物のクセによぉ!」

「っ! ダメ……言わないで……」

 化け物? ああ、吸血鬼のことだろ? 化け物っていうほどでもないと思うが? 俺からして見ればアヌビスやジェフティの方がよっぽど化け物に見えるぞ?

「良い機会だから教えてやるよ、小僧。その小娘はなぁ……」

「だ、だめぇええ! お願い、言わないでー!!」

 すずかは泣き叫んで止めるように訴えるが、それを聞くような奴等じゃない。

 男達は嫌な笑みを浮かべてこう言った。

「夜の一族っていう吸血鬼なんだよ!」

「あ……あぁ……」

 その一言ですずかは目を見開き、世界が終わったような顔をしていた。

「血を吸う化け物なんだよ、そいつはよぉ。人の生き血を吸って生きる化け物なのさ、ひゃはははは!」

 ……ところで、一つ言っっておこう。 ……知ってるけど何か?

「いや、知ってるけど?」 

「ひゃはは……は?」

「……え?」

 俺の一言で辺りは静寂に包まれる。そして数秒後に男は復活して聞き返した。

「なん……だと?」

「いや、だから知ってるって言ったんだけど? 一度で聞けよ阿呆。耳が遠いのか? ああ、それならすまなかったな。その耳はお飾りだとは思わなかったよ、ドブに汚れたクソ野郎共」

 男はその言葉で顔を歪め、すずかは信じられないといった驚きをしている。

「こ、このガキがぁああああ!!」

「だ、ダメ!」

 激情した男達が俺に銃を向ける。

 くくく……そんなオモチャで俺を殺せると?

【フィールド、展開】

 ダダダダダダダッ!

 俺から半径1m程にバリアが展開され、すずかと俺を包み込んだ。それと同時に男達が発砲する。……だが、当然その弾丸は俺に届かない。全てが弾き飛ばされる。

「な、何で効かないんだよ!?」

「何なんだよコイツは!?」

 銃が効かない俺に男達は動揺し、後ずさる。

 さて、パーティでも始めるか?

「月村忍との契約により、月村すずかに仇なす者の排除を開始する」

「れ、煉……くん?」

 俺はゆっくり立ち上がると、すずかが俺を見て言った。その表情は恐怖、疑念、期待などが込められている。

「俺が良いと言うまで目を開けるな。あとこれで耳を塞げ。いいな?」

「う、うん……分かった」

 俺はすずかに高級な耳栓を渡した。

 ここで彼女にミンチになった死体を見せる訳にはいかんだろう。

 俺は視線をすずかから男達へと移した。

「おい、教えてやるよ。化け物ってのはなぁ……俺みたいな奴を言うんだよ!」

 俺は両腕を部分展開し、『Stardust』を乱射する。

 一人は頭部に直撃し、頭の無い死体が出来上がる。更に一人は心臓に直撃した後、蜂の巣にされて穴だらけの死体が出来る。同じように二人が蜂の巣にされる。こちらは原型を留めていない。

「ぎゃあああああ!? 足がっ、俺の足がぁああああ!?」

 だが、運良く……いや、この場合は運悪くだな。運悪く生き残った者がいた。それは先ほど俺と話していたリーダー格の男だった。

「喚くな蛆虫」

 俺は転がり続ける男のもう片足と両腕に『Stardust』を叩き込む。

「――――――っ!?」

 もはや声にならない叫びが倉庫に響き渡る。

「くくくっ……良いメロディだ。どうした、もっと奏でてみろよ?」

 コイツ等に与える慈悲は無い。無惨に千切れて死ね。

「どうした! 何が起きてるんだ!?」

 そこへ二階に居た男三人が叫び声を聞きつけて階段から降りてきた。

 俺はそれを横目で確認すると左腕の『Stardust』をそっちに向けて乱射する。男達は声を上げる事すら出来ずに息絶えた。

 辺りを見ると結構凄惨な光景だ。穴だらけの死体があるが出血はしていない。ただ壊れた人形が倒れているかのようだ。

 さて、これで掃除は粗方完了した。残りは三階にいるボスを始末すれば問題は解決だ。ま、その前にやることがあるがな。

 俺は未だに悶え苦しんでいる男の頭を『Akatuki』で串刺し、すずかの所へ向かった。

 ちゃんと俺の言いつけ通りに目を瞑っている。良い子だ。

 俺は耳栓をゆっくり外してやった。

「すずか、そのまま目を瞑ってろよ?」

「う、うん」

 俺はすずかを抱き上げて外へ連れて行く。

 外に出ると、茂みまで連れて行ってすずかを降ろした。

「さて、それじゃあここで待ってろよ」

「あ、待って! 煉君は……どうするの?」

「俺か? 決まっている。契約を果たすだけだ」

 契約はきちんと果たさないといけないからな。

「そ、それってお姉ちゃんと……「それはまた今度に話そうな?」……うん」

 すずかは俺の言いたい事を察したのか素直に頷いた。まだ恐怖で身体が震えている。アフターケアまでは請け負っていないのでそれは月村忍に任せよう。

 さて、俺は茂みから出るとナインボール・セラフを装着し、バーニアを噴かして建物の屋根へ向かった。

「さてさて、ボスの顔を拝んで見るかねぇ」

 ドゴンッ!

「な、なんだ!?」

 俺は屋根を突き破って直接中へ侵入した。どうやら丁度良くボスの部屋に降りたようだった。

 土煙が立ちこめる中、俺は一度装着を解除する。

「こんにちわ、吸血鬼さん」

 煙が晴れると俺は不敵な笑みを浮かべて挨拶した。

「な、何者だ!? それに、雇った人間共はどうした!?」 

「あ? ああ〜、アイツ等なら殺したけど?」

「なっ!?」

 こんな子供が大の大人を八人殺したなんて言ったら驚くわな。

 さて、改めて確認したところ、部屋には男一人と人造人間が四体程いる。

「た、たかが人間を殺したぐらいでいい気になるなよ! こっちにはまだ切り札があるんだ! 行け、イレインよ!」

「はんっ、ガキの相手なんてつまらないね!」

 コイツ……月村家のノエルと同じく感情があるのか? ただ、後ろにいる三体は感情が無いようだが……。まあいい、こちらも相応の姿で相手してやろう。

「ナインボール・セラフ、起動」

【イエス、マスター】

 俺はナインボール・セラフを装着し、戦闘体勢を整える。

「な、なんだそれは!?」

 装着した俺に驚く男。

 まったく……これで何度目だ? 説明するのもいい加減飽きたぞ?

「ゲイザーを使用する」

【『Capture』、了解】

 俺は両手の五本の指に光を纏わせて、それを周囲に投げつける。二体はそれに捕まるも、残り二体は潜り抜けた。だが当然一回だけで終わらせるつもりはない。

 何度も繰り返し投げつけ、三回目で全員を捕獲した。光が当たった場所が針のように人造人間を串刺しにして動きを止める。

 この『Capture』は機械相手にしか使えず、直接的なダメージは無いのがネックだが、拘束力は高い。

「ぐっ、動かない!?」

「な、何をやっているイレイン!? さっさとそいつを殺せ!」 

 無駄だ。機械である限りその『Capture』からは逃げられない。ま、持続効果はそこまで長くないが、あと数十秒は拘束できる。

【F.マイン『Ashes』を使用】

 俺は直径1m程の球体を取り出した。

「な、なんだそれは!?」

「これか? これはF.マインと言ってな、コレ一個でビル一つは破壊出来る代物なんだ」

 俺は笑みを浮かべてそう言った。

「ま、まさかっ!? や、止めろ! か、金なら払う! いくらだ? お前の望む物全部くれてやるから命だけは!」

 金? 残念ながら十分にある。そもそもお前に生きる選択肢なんて無いのだよ。

「俺が望むのは……お前の死だ」

 俺は『Stardust』を男の両足に撃ち、逃げられないようにする。

「ぎゃああああ!? ま、待ってくれ……たの……む……助けて……くれ!」

 さようなら、お馬鹿な吸血鬼さん。

「待ってくれぇええええ!!」

 俺は男と『Ashes』を置き去りにして飛び立つ。

 その数瞬後、大爆発と共に倉庫は崩れ去った。


 全てが終わった後、俺は装着を解除してすずかの所へ向かった。

「あ! 煉君、大丈夫なの!? 凄い音がしたから心配したんだよ!」

「ああ、大丈夫だよ」

 すずかは俺を見つけると涙目でこっちに駆け寄った。

「さ、早く帰ろう。すずかのお姉さんが心配しているはずだ」

「ま、待って!」

 帰ろうとした時、すずかは俺の手を掴んで引き留めた。

「あの……知ってるって……本当なの?」

 知ってる? ……ああ、夜の一族の事か。

「ああ、知ってるよ。夜の一族の事も、すずかとお姉さんが吸血鬼だという事もな」

「っ! じゃ、じゃあどうして煉君は知ってて私に優しくするの!? わ、私は…………ば、化け物なんだよっ!」

 すずかは一度決意してからそう言った。

 化け物? 笑わせるなよ。お前が化け物なら俺は何なんだよ?

「で?」

「……え?」

「それを俺に言ってお前はどうしたいんだ?」

「あ……その……」

 何も考えずに言ったのか? ま、そんなものだろうと思ったけどな。

「俺から言わせてみればお前が化け物なんてあり得ない。例えそう思うなら随分と可愛らしい化け物だな」

「えっ? で、でも私はっ」

「血を吸うから化け物か?」

「…………」

 ……はぁ。面倒臭い奴だなおい。

「色々言うのは面倒だから省くが……すずか、お前がb「大丈夫かすずかちゃん!」……やれやれ」

 今頃救援か? ったく、もう少し早く……ってこの人、喫茶店のマスターじゃないか!?

「ん? き、君は煉君じゃないか! どうしてここにいるんだい?」

「あ、あのねおじさん! 煉君は私を助けてくれたの!」

 そこですずかが俺を庇ってくれた。いや、庇うっていうか、確かに俺が助けたんだけどな。事実だし。

「……っ、煉君……君は一体何者だい?」

 士郎さんは俺の方を見ると、表情を変えて問うた。そしてかなり警戒している。

 はて、俺は何か警戒されるような事をしたのか?

「父さん! 倉庫が崩壊していて、中から沢山の死体が出てきた!」

「恭也!」

「っ! ご、ごめん……父さん」

 まだ幼い子供が居る前で死体という単語を出した事に士郎さんは叱咤する。

 すずかはその言葉に目を見開いて俺を見た。

「恭也、すずかちゃんを連れて月村邸に行きなさい」

「……父さんは?」

「少し煉君と話をする」

 話……ねぇ。まったく、面倒な事になったな……。

「さて煉君、君は何者なんだ? どうやってすずかちゃんを助けたんだ?」

 恭也がすずかを無理矢理連れて行った後、もう一度問うた。

「別に。すずかを助けたのは月村忍との契約の為です。他意は無い」

「忍ちゃんと……? 聞いてないが?」

「ならば言ってないだけでは?」

「…………」

 月村忍も困ったものだ。どうせなら話しておけばいいのに。要らぬ誤解を招いたじゃないか。

「それじゃあ俺はこれで―――「待ちなさい」……はぁ。何ですか?」 

 俺がそそくさと帰ろうとしたらまた呼び止められた。

「君の目はとても危険な瞳をしている。まるで―――「殺しを楽しむ人の様ですか?」っ!」

 別に殺すのが好きって訳じゃないけどな。ま、嫌いな訳でもない。

「君は……今まで何人の人を殺してきたんだ?」

 今まで? 随分と難しいことを言うなぁ。はて、何人だったっけかなぁ?

「……間接的を含めておよそ数千万、ですかね?」

 疑似体験の時、クレイドルを大地に引きずり下ろしたことで半数は大気汚染で死んだだろうな。

「すうせっ!?」

 俺の言った数を聞いて士郎さんは絶句する。

「ああ、これは事実ですから。世の中には不思議なこともあるんですよ、くっくっく」

 俺はくつくつと笑いながらその場を立ち去るが、一つ思い出して足を止めた。 

「そうそう、すずかに伝言を頼みます」

「伝言……?」

「ええ。『君は化け物じゃない。化け物っていうのは自分の愉悦のために人を殺す奴のことだ』ってね。ああ、心配しないでください。今後俺は彼女に近づきませんから。その方が安心でしょ?」

 そう言って今度こそ俺は足を家に向けて行った。


「…………」

 そして士郎はその場にしばらく立ち尽くして煉の去った後を見ていた。


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