小説『魔法少女リリカルなのは−九番目の熾天使−』
作者:クライシス()

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第十四話『交戦』





 翌日、俺は街の中へ買い物に向かっていた。流石にシグナム達にやらせるわけにはいかない。シグナムがテスタロッサと戦ったのだから、必ず高町なのはが介入、若しくは既に関わっていると思われる。

「え〜と、豚バラ肉に鶏モモ、タマネギとニンジンにジャガイモ、それと……って、今日はカレーか?」

 ああそれと、ヴィータにアイスを買ってやらなければいけなかった。はやてにアイス禁止令が出されているが、あの絶望した顔を見て買ってやらない訳にもいくまい。

「アイスは……スーパーパックでいいだろう」

 俺はアイスを籠に入れようとして手を止めた。何故止めたか? それは視界にとある親子が映ったからだ。

「フェイト、今日は何がいいかしら?」

「えっと……な、なんでもいいよ?」

「もう、もっと我が儘を言っていいのよ?」

「う、うん……じゃあ、今日はハンバーグがいい」

「分かったわ、ハンバーグね♪」

 どう見ても、いや、どう聞いてもフェイト・テスタロッサとプレシア・テスタロッサだった。しかも割と至近距離にいる。

 俺が思わず視線を向けてしまったので、プレシア・テスタロッサがこちらを振り向いた。

「あら、どうしたのかしらボク? 私の顔に何か付いてるのかしら?」

 一瞬ビクッとなったが、至って平静を装って目前の問題に対処する。

「あ、いえ、この辺りじゃあまり見ない人だったので……つい……」

 苦しい言い訳に聞こえるが、間違ってはいない筈だ。

「あら、やっぱり分かっちゃうのかしら。私達は今日ここに引っ越したばかりなのよ」

「あ、そうなんですか。どおりで……。あ、何か分からないことがあれば何でも聞いて下さい。力になりますよ?」

 取りあえず普通の子供っぽく装えばいいだろう。

「あら、優しいのね。それじゃあ、その時はお願いね? あ、そうそう。私の名前はプレシア・テスタロッサよ。そして、この子は私の娘よ」

「フェイト・テスタロッサです。よ、よろしく」

 うん、知ってる。

「よろしく、テスタロッサさん」

「うふふ、私達のことはプレシアとフェイトでいいわ」

「う、うん。紛らわしいから……」

 まあ、確かに紛らわしいわな。

「それじゃあ、また今度ね」

「っ! うん!」

 俺が笑顔でそう言うとフェイトも笑顔で返してくれた。

「あらあらフェイト、彼の事……気に入ったのかしら?」

「か、母さん!?」

「それともクロノの方がいいのかしら?」

「も、もう! そんなんじゃ無いよ!」

「うふふ」

 俺が立ち去ると、後ろからそんな声が聞こえた。

 うわぁ……端から見てると凄く微笑ましいなぁ。

 ま、アイツ等が邪魔しても命だけは助けてやろう。知り合った吉見だ

 流石に女の子を殺すのは罪悪感が…………いや、何を言ってるんだ俺は。今更罪悪感なんて……。

 俺は頭を振って思考をクリアにし、買い物を済ませにレジへ向かった。





 それから5日が過ぎた。そしてすぐに問題が起きた。

「あのな、今日はウチが言ってた新しく出来た友達のすずかちゃんが来るんよ!」

「……マジかぁ」

 マジかぁ……。いや、もう本当にそれしか言葉が出なかった。今日も俺がはやての護衛をする日なのだが、これは予想外だった。

 っていうか、最近問題が多発し過ぎじゃねぇか?

 別に俺は悪く無いと思うんだ。何も悪い事は……してるけど、そこまで悪く無いと思うんだ!

 ……ふぅ。現実逃避しても仕方が無い。兎に角対策を練らねば。

「で、何時来るんだ?」

「今から」

 はい終了! 対策もクソも無ぇ! どうしろってんだよ!

 兎に角、はやてには少し出掛けると言って凌ぐしか―――

 ピンポーン

「あ、来たみたいや!」

 はやてが今から玄関へと出迎えに行った。

 ……終わったな。

「あ、はやてちゃん。お邪魔します」

「うんうん! 早く上がってな! ウチの居候も紹介したいしな!」

「居候って、この前言ってた人?」

「せや。今は居間におるで」

 そしてはやてとすずかが居間に入ってきた。

「へぇ、どんな人なんだ……ろう?」

「どないしたん、すずかちゃん?」

「よぉ……元気にしてるか、すずか?」

「煉……くん?」

「あれ? 知り合いやったん?」

 それはもう、ね? 知り合いというか友人というか……色々複雑な関係ではあるがね。

 さて、そんなこんなで俺達はソファに座って向かい合っていた。はやても同席している。

「居候って……煉君だったんだね」

「ああ、成り行きでな」

 そして、はやてに事情を話した後にすずかは呟いた。

「世の中狭いもんなんやねぇ」

 一方、はやてはしみじみという

「所詮そんなもんさ」

「…………」

 そして会話が続かなくなる。すずかは少し俯いて黙っており、俺はただ出されたお茶を飲む。

 すずかと俺の事を察したのか、はやては突然席を立って俺達を二人きりにした。正直、余計な気遣いと思うがまあいいだろう。元々こんな状況を作り出したのは俺が原因だしな。

「……士郎おじさんから聞いたよ。その……ありがとう」

「礼を言われる事じゃねぇよ。俺はただ思ったことを言っただけだ」

「それでも、だよ。でもなんで……もう会わないなんて言ったの? 私、煉君が私の正体を知ったからだと思って怖かった……」

 ああ、あの事か。いやなに、色々都合もあったし、何より要らぬ疑いを持たれても困るからな。

「いや、ただ丁度良かっただけだ。今少し忙しくてね。今やっていることが終われば俺もこの街を離れようと思ったから縁を切ろうとしたんだ」

「なんで? 街を離れるなら縁を切る必要なんてないよ」

 色々と面倒事を回避するためでもあるんだがね。

「ま、薄々感づいていると思うけど、俺は普通の子供じゃない。お前の護衛をしていた様に、傭兵紛いのことをしてる」

「だから縁を切ったって言うの?」

「ああ、その方が互いに益がある」

 いや、この場合は俺にしか益は無いがな。それに半分は嘘だ。

「さて、暗い話はこれまでにしよう。はやてに気遣わせてしまったしな」

「……うん、そうだね」

 俺ははやてを呼んで、今度は世間話をした。しかし、夜になっても蒐集活動に行ったシグナム達が帰って来ない。

「遅いなぁ、シグナム達」

 もしかすると問題が発生したかもしれない。

「そうだな……。すずか、ちょっと頼みがある」

「何かな?」

 恐らく管理局と交戦している可能性がある。ならば救援が必要かもしれない。

 なら、今するべき事は……

「はやてを今日一日、お前の家に泊めて貰えないだろうか?」











「ルシフェル、あの結界に侵入するに足る武装は?」

 はやてをすずかの家に預け、俺はシグナム達の捜索に向かった。そこで、近くに結界を張られていたのを見つけて今に至る。

【結界全てを破壊する必要はありません。よって、一点突破の『Halberd』を推奨します】

「分かった。それじゃ、行くぞ!」

【イエス、マスター。『Arsenal』展開】

 俺は両手で抱える程の大きさの銃のような物を取り出した。長さは2m前後である。『Arsenal』とは英語で『武器庫』という意味だ。これ一丁で『Phalanx』『Halberd』『Comet』等のサブウェポンを使用可能だ。

【『Harberd』、照射】

 そして今回の武装は『Halberd』だ。これは高出力のレーザーで、大抵の建造物はこれで瞬時に破壊可能だ。勿論、ビルも一棟ならチーズの様に切断できる。

 ソレを結界の一点だけに照射して穴を空け、すぐさま『Arsenal』を収納して内部へ侵入する。

 それなりに頑丈だったが、穴を空けるのに数秒しか掛からなかった。

 そして辺りを見渡して笑みを浮かべる。

「……見つけた」 

【敵影19。前方に7、結界外に10、建造物の物陰に2】

 物陰に2? 伏兵のつもりか? ……まあいい。所詮、魔導師二人に出来ることなど高が知れている。高町やテスタロッサ並の魔導師であれば別だが、そのような情報は……いや、待てよ? 先日襲ってきた仮面の男がいたな……。あいつらか?

 何故、管理局側は俺達をすぐに捕まえに来ない? ……仮面の男と管理局は敵対関係なのか? なら、第三の組織の可能性も……いや、今はそれを考えるべきでは無いな。

「それじゃ、介入しよう」

【イエス、マスター】

 俺はバーニアを噴かしてシグナムの隣に降り立つ。

「「「「「「「なっ!?」」」」」」」

「れっ……ルシフェル、来たのか!?」

【貴女達の帰りが遅いので様子を見に来てみたのですが……】

 俺は管理局陣営を見る。高町にフェイト、クロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライア、アルフ、神崎……そして王騎がいる。

「る、ルシフェルさん!? な、なんでその人達と一緒にいるの!?」

 高町が心底驚いたように聞いてきた。周りも同様だった。

【愚問です。それぐらい察しなさい】

「くっ、お前……裏切ったのか!?」

 クロノ・ハラオウンが裏切ったと言っている。

 裏切りだと? 何を言うのか。馬鹿らしい。第一、俺はお前等の仲間になった覚えはない。

【裏切りとは心外です。私は貴方達管理局の仲間になった覚えはありませんが? 以前交わした契約はあの事件限りの話です】

「ぐっ……!」

 悔しそうにしても現状は変わらないぞ、クロノ・ハラオウン?

「やっぱテメェは潰さなきゃならねぇみたいだな!」

 そして神崎がこちらに黄金の剣を向けてきた。潰す? それもおかしなことだ。お前、俺を潰せると思っているのか?

「ルシフェル、私はあのテスタロッサを相手する。お前はあの気味の悪い男子と双剣の男を頼みたい」

 気味の悪いって……ああ、また何か言ったのか、アイツ。懲りないねぇ、まったく。

 シグナムの言い方からして変な事を言ったのはどうやら神崎だけらしい。ま、王騎はもうそんなこと言わないだろうね。

【いいでしょう。それでは、さっさと済ませて帰りましょう】

「ああ」

 シグナムは飛び立ち、フェイトの方へ向かって行く。俺は神崎と王騎の相手だ。

【戦闘モードへ移行します】

「はんっ! 今度こそぶっ潰してやるぜ!!」

 先ずは神崎から攻めてきた。どういう訳か王騎はそのまま動かない。連携は無いと思うが……多分、神崎がいたら邪魔なのだろう。

「ストライク・エア!」

 神崎が下段からの斬り上げをすると、竜巻のようなものが俺をに向かって襲いかかってくる。

 それをクイックブーストで回避、お返しに『Stardust』の雨を降らせる。

「はっ! 効かねぇんだよ!!」

【イージス、発動】

 彼の目前に金色の楯の形をしたバリアが張られる。エネルギー弾は全てそれに防がれるが、別に痛くも無い。それはあくまでも牽制に過ぎないのだから。

 まったく、あいつは何処まで馬鹿なのだろうか? 戦いの仕方も知らないで俺の前に立つなよ。それと、防ぐのは良いがそのまま動きを止める馬鹿がいるかっての。

 俺は瞬時に奴の背後に回りこんだ。

「なっ……ぐえっ!?」

 そして腹部に一発拳を叩き込んで怯ませる。見事なくの字になった。そして俺は奴の後ろに回り込み、両腕で抱きつくように拘束する。

「ぐっ! は、離せ!!」

 勿論離したりしない。俺はそのまま高く上昇し、

【沈みなさい】

「や、止めろ……」

 回転しながら猛スピードで落下する。その先にはビルの屋上があって―――

「止めてくれーー!?」

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォン!!

 屋上から一階まで貫通していった。その衝撃でビルが崩壊する。

 ただ、神崎は馬鹿でもデバイスは優秀らしく、ビルに激突する寸前でバリアのようなものを張ってダメージを軽減させていた。

 それでも身体に伝わる衝撃は全て防げていないらしく、奴は気絶していた。

 俺は完全に崩壊する前に馬鹿を外に放り投げ、俺も脱出する。

 そして、今度は王騎が対峙する。

「……ルシフェル、何故お前は闇の書側にいる?」

 王騎が少し怒気を含めた声で聞いてきた。

【それが必要だからです。今回ばかりは妥協も譲歩もしません。邪魔をするなら……彼同様、排除します】

「……頼む、話を聞いてくれ」

【話を聞く必要はありません】

「くっ!」

 俺は牽制用に『Stardust』を撃った。王騎はそれを飛翔して回避する。

 その隙におれはクイックブーストで先ほどと同じように背後に回り込み、腹部に拳を……

「ふっ!」 

 ……叩き込めなかった。王騎は後ろを振り返らずに体を捻って躱しやがった。

「俺はもう……変わったんだ!!」

 ぐっ!?

 王騎は双剣を手にして斬り掛り、俺は『Akatuki』を展開して防ぐ、が……

 ギャリッ! ギンッギンッ!

 重い……だと!? それに、武器を切り裂けない!?

「はあっ! せあっ!」

 明らかに前戦った時より腕が上がっている。それに踏み込みも速く、威力も申し分ない。

 バカな!? たった数ヶ月で……たった数ヶ月でここまで成長するというのか!?

「アイギス!」

 そして王騎の周りに十本の鈍色の魔力の剣が出現し、回転しながら一斉に射出してきた。だが、躱せないほど速い訳では無い。この程度なら普通に躱せる。

 俺は最小限の動きで飛来する魔力剣を回避する。だが、四本目を回避した時……

「ブレイク!」

 ドドドドゴォオオン!!

「ぐっ!?」

 躱した剣と目の前に迫った剣が爆発を起こす。そして、後続の五本の剣も順次爆発していった。

 今ので装甲に傷が入った。右腕の上腕は僅かだが一部の装甲が剥がれている。

【損傷率5%。戦闘行動に支障ありません】

 流石は変態科学者が作っただけはある。だが、痛みは伴う。装甲が剥がれるときだって、皮膚を無理矢理剥がさせるような痛みが走った。

 だが、この程度の痛みでは俺は墜ちない!

「……やっぱりこの程度じゃダメか」

 煙が晴れ、俺が立っているのを確認した王騎がそう呟いた。

 ……どうやら認識を改めなければならない。奴の戦闘力は近接戦闘ではフェイトにも劣らない。

『皆、今から結界破壊の砲撃を撃つわ! 退避して!』

「っ!」

 俺が改めて戦闘しようとした時、シャマルから念話が届いた。

 しかし、シャマルにそんな大威力の魔法は知らない筈だが…………まさか!? 

「アイギス!」

『シャマっ……くっ!』

 ええい、小賢しい!

 俺が慌ててシャマルに念話しようとするが、王騎の攻撃で阻まれてしまった。

 そして暗雲が立ちこめ、紫の雷が結界に直撃、ひび割れていく。

 ちっ……遅かったか。こうなっては仕方ない。撤退する。

【仕方ありません。ここは一旦退きます】

「……出来ればもう会いたくないけどな」

【貴方達が邪魔をしなければ、ですが】

 出来ればその方がありがたい。

「それは無理な相談だ。俺はもう……決めたんだ」

 ふっ……いい目をしてるな。

【……そうですか。それでは私は失礼します】

 俺は撤退し始めたシグナムを追いかけてこの場から脱出した。

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