小説『ダーウィンが来た』
作者:市楽()

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ダーウィンは待望の赤提がぶら下がる居酒屋の前にいた。

はやる気持ちが抑えられないのか、おれとゾウ亀を置いて小走りで行ってしまっていた。

焦る気のないおれはゾウ亀に合わせてゆっくりと追いついた。

ダーウィンは店の前で暖簾を潜って行く先客を羨ましそうに見ながらも耐えていた。

一応、奢ってもらう自覚はあるらしく、おれより先に暖簾を潜るのは我慢したらしい。

ダーウィンに急かされるように、おれは暖簾を潜り店に入った。

後ろを振り返るとダーウィンは前のめりになり、頭を暖簾に突撃させて潜っていた。

よっぽど嬉しかったのだろう。暖簾を手で押し上げたり、頭を低くして暖簾の下を潜ったりと幾つか潜り方を

試し、暖簾を堪能してから店に入った。

ダーウィンは呑みたいのではなく、単に暖簾が潜りたかっただけではないのか。

だとすれば高い暖簾の潜り代になりそうだ。

 店に入ったおれ達を大将が威勢のよい声で出迎えてくれた。

入ってから気が付いたのだが、ここはカウンターと机が3つほど置かれた立ち呑み屋だった。

「何名ですか?」と大将に聞かれたので、少し悩んで見ての通り二人と答えようとした。

しかし「二人と一匹です」とダーウィンが右手の指二つと左手の指を一つ立てて答えてしまった。

大将が怪訝な顔をしたのでいつものように追い出されるのではと心配になった。

しかし、大将はすぐ笑顔に戻って「あいよ、二名と一匹様ですね」と言ってカウンターに案内してくれた。

さすがプロだな、とおれが感心していると「ここ、すごくいいお店ですよ」とダーウィン一杯も飲まずに断言

した。大将はなかなか良さそうな男だが、そこまで断言されると理由が聞きたくなる。

ダーウィンは「動物好きに悪い人はいないですから」と嬉しそうに答えた。

そんなものかと思いながら、まずは生ビールを注文した。

大将から手渡されたジョッキをダーウィンとぶつけ、仕事で疲れたおれと何かには疲れたはずのダーウィンは

互いを労って乾杯した。ぐいっと一気に飲み干すとあまりの旨さに声が漏れる。

どうして、こんなに仕事終わりのビールはたまらないのだろう。

横のダーウィンは味わうようにちびちびと飲んでいた。

ゆっくりっと時間をかけて飲み干すのを待ってから、立ち呑み屋どうだと聞いてみた。

ダーウィンは先客達の笑い声と楽しげな会話に耳を澄まし、赤みがかった照明の店内を見渡してから

「思った通り素敵なところですね。パブと甲乙つけがたいです」と言った。

そうか、呟きながらダーウィンを見るとはいつもより2割増しで笑っていた。

この顔を見ると随分と気に入ったのだろう。

おれはちょっとパブがどんなところか気になってしまう。

「ただ、おつまみをいただかないとことには結論が出せませんね」と付け加えるのを忘れなかった。

ダーウィンは熱い視線で壁に貼られたお品書きを見つめている。

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